「施餓鬼(せがき)」という不思議なお盆の行事
お盆の季節に入った。全国各地では、先祖供養や送り火などのお盆の行事が盛況だ。その中で「施餓鬼」と呼ばれる、不思議な行事があるのをご存知だろうか。
この時期に亡者の「餓鬼」を救済する目的で、地域の寺で実施されることが多い。餓鬼の様子がリアルに描かれているのが、国宝の絵巻物「餓鬼草子」(平安時代)である。そこで、餓鬼草子をもとに、当時の庶民の葬送風景を紐解いてみたい。
本稿は拙著『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)を基に、加筆・再編集した。
餓鬼とは、栄養失調で腹がぽっくりと出て、飢えと渇きに苦しみながら、口から炎を吐く、亡者のことだ。仏教でいう死後の輪廻、六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)の下から2番目の世界に住むとされる鬼の一種でもある。
お釈迦様の弟子である阿難尊者が、瞑想をしていた時のこと。にわかに、餓鬼が現れて「われわれ無数の餓鬼に飲み物や食べ物を施せば、餓鬼たちは苦しみから解き離れて天界へと生まれ変わることができ、おまえも延命することができる。しかし、それができなければ、3日のうちに絶命して、おまえも餓鬼道に堕ちてしまうであろう」と、無理難題を押し付けてきた。
阿難尊者がお釈迦様に助けを求めたところ、「人々が餓鬼に飲食を施し、呪文などを唱えるなどすれば、多くの餓鬼は救われ、天界に生まれ変わることができる」とアドバイスして、阿難尊者は難を逃れることができた。そうして、仏教思想のひとつである「抜苦与楽(=苦を取り除き、楽を与える)」の実践として、人々の間で施餓鬼会が広まっていったと考えられる。