今夏プーチンが日本に向けてやった忌々しい行為

今年で78回目の終戦記念日を迎えたが、北方領土における「終戦」はまだ訪れていない。かの地を巡っては、このところきな臭い動きが見られる。今夏、ロシアは9月3日を「対日戦勝記念日」と一方的に宣言してきた。さらに、根室半島と歯舞群島の間にある貝殻島の灯台に、ロシア正教の十字架を設置した。北方領土の実効支配を強めるとともに、ウクライナ戦争で対立する日本を牽制する動きと見られる。そこには、「宗教」を使った植民地政策の、常套手段が隠されている。

新年度が始まった2023年9月1日、ウラジーミル・プーチン大統領は、成績が優秀な生徒30人を集めて「重要な対話」と呼ばれる授業を行った(=ロシア・モスクワ)
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
新年度が始まった2023年9月1日、ウラジーミル・プーチン大統領は、成績が優秀な生徒30人を集めて「重要な対話」と呼ばれる授業を行った(=ロシア・モスクワ)

筆者は過去にビザなし交流団員として、北方領土を訪れている。2012年の択捉島を皮切りに、2013年には色丹島、2015年には択捉島と国後島を訪問している。ちなみに歯舞群島は、ビザなし交流の中には組み込まれていない。

北海道根室半島の納沙布岬に設置されている望遠鏡を覗き込むと、手に取るような近さに北方領土を捉えることができる。岬からもっとも近い距離にある北方領土が、歯舞群島の貝殻島である。貝殻島は満潮時には水中に没する「低潮高地」にあたる。したがって全容を視認することは難しいが、そこには“ピサの斜塔”のような古い灯台が傾いて立っている。灯台は戦前の1937(昭和12)年に、わが国によって設置された。

白く塗られる前の貝殻島灯台
撮影=鵜飼秀徳
白く塗られる前の貝殻島灯台

貝殻島は納沙布岬から、わずか3700メートルの距離にある。島と灯台とを結ぶ中間ラインより北側は、ロシアが支配する海域である。常に銃器を装備した国境警備隊が目を光らせている。

根室沖を警戒するロシアの沿岸警備隊
撮影=鵜飼秀徳
根室沖を警戒するロシアの沿岸警備隊

毎年6月、貝殻島海域では、日露民間交渉に基づくコンブ漁が解禁される。今年のコンブ漁は、9月末まで実施される予定だ。歯舞群島海域で採れた昆布は、最高級の「歯舞コンブ」ブランドで、市場に出回る。肉厚で、おでんの具材などに使われる。

4月に妥結した交渉では、204隻の船と3081トンのコンブ採取に対し、8254万円をロシア側に払うことで合意した。1隻当たり40万円程度の負担になる計算だ。

このようにロシアにカネを払うことで、北方領士の一部海域で操業が可能になる。しかし、両国の領土紛争の最前線にあるこの海は安全とは言いがたく、過去にはロシア側の銃撃で命を落としたり、拿捕だほされたりしている。

「カニの甲羅の中に賄賂の札束を詰め込んで、警備隊に渡す習慣が、旧ソ連時代にはよくあった」

根室のある有力者は、かつて筆者にこう明かしていた。ウクライナ戦争や、北方領土問題を抱えつつも、海の上では、なんとか経済活動が行えている。