インフレが長引くとどんな悪影響が出てくるのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「現状の3%を超すインフレが意味するのは、それはお金の価値が1年で3%下落するということ。現金や預金100万円がそのままでは年に3万円程度価値が下がり、購買力が落ちます。植田和男日銀総裁には、勇気をもって金融を正常化させてほしい」という――。
このままでは預金者は1年で30兆円の損
インフレ率がなかなか下がりません。年初の4%台からは下がったものの3%を超すインフレが続いています。3%のインフレというのは、お金の価値が1年で3%下落するということです。現金や預金を100万円持っていれば、そのままでは年に3万円程度価値が下がり、購買力が落ちるのです。それを補塡するのが、金利ですが……。
日本では個人金融資産が約2000兆円あり、その約半分の1000兆円が現預金です。つまり、3%インフレ(価値の下落)のままでは年間30兆円分国民の資産が目減りすることになります。これは、見えない税金です。
逆に言えば、もし3%の金利が付けば(1000兆円×0.03=30兆円)、税金分の約6兆円は政府に入るものの、24兆円ほどが個人に入ることとなるということです。絵に描いた餅ですが。
現状では日銀は緩和を継続し、金融引き締め(金利を上げる)を今はやるべき時期ではないとしていますが、「引き締め」ではなく「正常化」を行わなければならないのです。
イールドカーブコントロールはデフレ時の産物
図表1を見てください。デフレ傾向が続いた日本では、政策金利である「コール翌日物(銀行間で1日だけお金を貸し借りする金利)」をマイナスに抑え込み、さらに、世界中の主要中央銀行では例を見ない長期金利(10年国債利回り)の誘導を「イールドカーブコントロール」の名の下に行ってきました。現状では上限は0.5%です。デフレ下でも異常な状況でしたが、インフレ率が上昇してもそれをやり続けることはもっと異常なことです。
米国では、図表1にあるように3カ月物の金利は5%を超えています。ユーロ圏では昨年はマイナスでしたが、今年に入り1%台だったのが最近では3%台です。