裏切りと協調、どちらが得か
人間関係を科学するゲーム理論という学問分野がある。ゲーム理論の守備範囲は広い。上司や同僚、取引相手との関係から、恋愛や家族関係の問題、複雑な経済状況までカバーしてしまう。企業が談合に走る理由も、どんなに批判されてもなくならない理由も、ゲーム理論で読み解くことができてしまうのだ。
談合事件を分析するのによく使われるゲームに「囚人のジレンマ」というものがある。
2人の共犯者が別室で取り調べを受けている状況を想像してみよう。2人ともが黙秘(協力)し続ければ証拠不十分で起訴猶予。しかし、相手が自白(裏切り)すれば、自分が首謀者扱いで実刑。自分が先に自白すればすべて責任は相手にあることになり無罪で即釈放。双方が自白する場合は、2人とも有罪だが、刑期は短めといったところだ。本来お互いが黙秘を続ければ一番よい結果が生まれるが、相手の裏切りを想定して2人とも自白してしまう、というゲームだ。
企業間で健全な価格競争が行われていれば、企業がある一定の利益を得る一方で消費者も喜べる状況が生まれるが、企業同士が結託して、消費者の利益を無視して高価格を維持しようとすることもある。これがいわゆる「談合」だ。消費者だけではない。公共工事入札での談合による国民経済への損失は2兆~5兆円にのぼる。最悪の場合、消費税2.5%に達する税金の無駄遣いがなされている。
先述の「囚人のジレンマ」にあてはめれば、囚人は企業、黙秘(協力)が高価格、自白(裏切り)が低価格。入札で、一社が抜け駆けして安値を付ければ、大きな利益が得られるが、囚人のケースと違い、談合企業のゲームは一回では終わらない。一人勝ちはできなくても、来月も翌年も同じメンバーによる入札が繰り返し続くため、長い目で見れば、協力し続けて少しでも利益を得たほうがいいという判断になる。他の例であれば政治家の秘書やギャングの一員などは、自白後の自身の境遇を考えて黙秘することもあるだろう。