悪意を隠しているつもりでも

なんだかんだ言って、社会人にとって「仕事」は、自分のアイデンティティを構成する重要な要素です。人によっては「会社」が同じ役割を果たすこともあります。

自分の中で自分の価値を上げるために、隙あらば他人の仕事を見下したくなるのは、残念ながら一種の本能と言っていいでしょう。しかし、本能のおもむくままに発言したら、周囲から顰蹙ひんしゅくを買って自分の株を下げてしまうのは確実。「他人の仕事を見下すなんて恥ずかしいし」という理性も歯止めになって、私たちは日頃、その邪悪な欲求から必死で目をそらしています。

頭の後ろで手を組んでモニタに向かって笑顔を見せる男性
写真=iStock.com/shironosov
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気を付けたいのは、自覚がないまま“見下し感”が漏れ出てしまう事態。言う側は悪意を隠しているつもりだけど、それが透けて見えているケースもあります。当研究所が独自のノウハウで収集した「見下されたと受け取られそうなセリフ」の例をご紹介しましょう。

・「ニュースでやってたけど、コロナの影響で○○業界はたいへんなんでしょ。おたくは大丈夫?」
→心配しているように見せつつ、心の奥底では「悲惨な話」を聞いて安心したがっている。エッセンシャルワーカーの人に、一時期よくかけられた「コロナに気を付けてね」というセリフも、危険な存在扱いしているように聞こえかねない。


・「会社でパソコン打っていれば給料もらえるんだから、いいよね。俺は体を動かすしかないからな」
→要は「楽な仕事しやがって」という意味。「体を動かすしか云々」も謙遜ではなく、「お前もやってみろ」の意味が込められている。
・「そんなたいへんな仕事、よくやってるね。自分には無理だな」
→単に「たいへんな仕事だね」だとやさしいねぎらいの言葉だが、この言い方は明らかに見下している。「いい給料がもらえるわけじゃないんでしょ」と続く場合も。
・「専業主婦って、今やある意味セレブだもんね。うらやましいな」
→働く女性から専業主婦に。素直に受け取るのは難しい。「仕事してないとつまんなくない?」と、気遣う形を取りつつ見下すパターンも。
・「お前は自由でいいな。サラリーマンなんてつまんないよ」
→フリーランスに対する誤解に基づいた定番の失礼。個人的な経験では、いわゆる大企業に所属する会社員ほど、こう言いたがる傾向がある。もしかして遠回しな自慢?
・「自分みたいなのは、組織の中で生きられそうにないからさあ」
→フリーランスが会社員に向けて言いがち。強がりと対抗意識が複雑に渦巻く。優位に立つセリフのつもりだが、相手は心の中で「たしかに無理だな」と逆に見下す。