日常生活でついうっかり口にしてしまう「マナー違反」の言葉の数々。新刊『失礼な一言』で多くの事例を収集したコラムニストの石原壮一郎さんがマネー関連で挙げるのが「年収いくら?」というぶしつけな発言。いったいどんな対応をするのがよいのだろうか――。

※本稿は、石原壮一郎『失礼な一言』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

ジャケットのあらゆるポケットに札束をねじ込んでいる男性
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お金という油断大敵な魔物

「あいつは金に細かい」

このセリフを口にするのは、自分自身が「金に細かい」人です。使われるのは、借りたお金を約束の期限になっても返さなくて、相手に催促されたとか、割り勘の端数を(気前よく払ってくれずに)きっちり計算されたといった場面。

いずれも、相手には何の非もありません。ただの逆恨みです。しかし、本人の中では「損した」という認識なのでしょう。仮に、そういう人に「細かいのはお前だよ」と指摘しても、すぐ「あ、そっか」と気づく人は少なそうです。

お金がからむと、人は身勝手な思考に陥りがち。イラストレーターや漫画家やカメラマンがよくこぼしているのが、友人や知人からタダで絵や写真を頼まれるという状況の悩ましさ。もちろん、相手との関係性によっては、結婚式のウェルカムボードを喜んでタダで描いたり、家族写真を楽しくタダで撮ったりするケースも多々あるでしょう。

しかし、当たり前のようにタダ前提で頼んでくるのは、たいてい薄い関係の友人です。適当な理由を付けて断わると「水臭い」と怒られ、意を決して「タダはちょっと」と言うと、それこそ「金に細かい」「友達なのにガメツイ」などと非難してくるとか。

専門家の技術や知識をタダで利用しようとするのは、店の商品を「友達だからタダでよこせ」と言っているのと同じです。同級生の外科医に手術してもらって、「友達のよしみでタダにしてくれ」と言う人はいないでしょう。

いわゆるクリエイティブな仕事に対して、世間は「遊んでるみたいなもの」と考えがち。「ダメモトで頼んでみて、あわよくばタダで」というセコくて図々しい発想の人もいます。しかし、頼まれたほうは「やるべきか断わるべきか……」と激しく葛藤し、多大なエネルギーを使わなければなりません。

どんな業種や状況でも、タダを期待した「ダメモト」は、失礼で迷惑な頼み方だと認識しましょう。