ギリシャ首相 Antonis Samaras(アントニス・サマラス)
1951年、アテネの裕福な家庭に生まれる。17歳でテニスの国内ジュニア大会優勝。米ハーバード大でMBA取得後、77年に国会議員初当選。財務大臣、外務大臣、文化大臣を歴任し、6月に首相就任。
政界の壊し屋、頑強な民族主義者、変節漢……。いいイメージはない。しかし選挙は強い。緊縮路線を継続しユーロ圏に残留するか否かが争点だった6月の再選挙は、勢いのあった反緊縮派の急進左派連合に、サマラス氏率いる保守系の新民主主義党(ND)が競り勝ち、3党連立政権を組んだ。これでギリシャのユーロ圏離脱から始まる“ユーロ崩壊”という最悪のシナリオは、ひとまず回避された。が、これで安心というわけではない。ギリシャ南部の裕福なエリート特権階級出身政治家が本気で構造改革を断行できるのか。そもそも今の危機をつくったのはND政権下の放漫財政。何より彼自身、建設的なことよりは分裂・混乱を生むことを得意とする。
外相時代の1992年、ユーゴスラビアから独立したマケドニアの名称使用問題で時の首相と衝突し、NDを飛び出して新党を結成した。結果、NDは過半数議席を保てず政権の座から転落。その10年後、その新党が議席を獲れないと見切るや新党を解散し、しれっとNDに復党。ND党首となってからは第一野党として、中道左派の与党PASOKのパパンドレウ首相(当時)と敵対。緊縮路線を激しく非難し、ND内の緊縮派も除籍処分とした。が、昨年11月に連立政権与党として自ら首相になる可能性も見えてくるとあっさり緊縮派に。パパンドレウ氏とは米アマースト大留学時代のルームメイト。国難を理由に早々に協力を決めれば、ここまで混迷しなかっただろう。
しかし、破壊も変節も、政治ゲームに生き残るための類稀な嗅覚があるからこそ。その嗅覚でギリシャのユーロ圏生き残りへの道も見出せる可能性はある。もっとも変節漢の前科を見れば、ある日突然、EU脱退を言い出しても不思議はないのだが。