仕事を上司から評価されないと悩む人がいる。リクルート出身で、Jリーグチェアマンを4期8年務めた村井満さんはあるとき、「自分が偉くなるのが大切なのではない」と気づいたという。どういう意味なのか。ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第14回)
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。
撮影=奥谷仁
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。

日本サッカーは「今から5年後」が楽しみ

――W杯カタール大会、日本はドイツ、スペインという優勝経験国に予選で勝って決勝トーナメントに進みましたが、PK戦の末クロアチアに敗れてベスト8進出はなりませんでした。この結果を村井さんはどう見ますか。

【村井】選手も監督もスタッフも本当によくやってくれたと思います。その上で、これが現時点でのわれわれの実力だなと。実は私が次のステップとして、とても楽しみにしているのは今から5年後、2028年のオリンピックと、その先のW杯なんです。

――ずいぶん先の話ですね。

【村井】今回のメンバーもそうですが、これまでは若くして頭角を現した選手が海外に出て、W杯が始まるとその選手たちが集まって日の丸を背負って戦うというスタイルが中心でした。強度の高い海外サッカーに身を投じてレベルアップを図るというものです。

【連載】「Jの金言」はこちら
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そうした中で、選手育成には高体連や大学、社会人クラブ、Jリーグのユースなど多くの選択肢がありますが、「Jリーグの育成システムとは何か」というコンセンサスが十分ではありませんでした。もちろん画一的に方向性を縛るつもりはなく、多様なクラブの個性を最大化するためにJリーグは何をすべきか、という議論です。Jリーグでは2030年ビジョンで「世界で最も人が育つリーグになる」という方向に合意しました。

今度はJリーグの選手が世界に挑む

そこでJリーグは2019年に、ワールドクラスの選手を輩出するために選手、指導者の資質を上げる「プロジェクトDNA」という取り組みを始めました。クラブのアカデミー組織フィロソフィーの策定やその思想に基づく人材育成戦略をクラブ個々が策定し、リーグが支援していくものです。クラブの進捗を共有していく評価システムなども議論しています。合わせて育成世代の大会方式の検討も行っていこうとするものです。

このプロジェクトの第1世代のジュニアユース(中学生)世代が20代前半になるのが2028年~2030年なんです。57のクラブがそれぞれの個性を出しながら競い合って育成した選手たちが日本のサッカーで世界に挑む。今はそこに期待しています。

――以前、「期待とは時間を与えて待つこと」とおっしゃっていました。やはり時間は必要ですね。

【村井】そうですね。そこで今回は「時間」という観点から私自身のビジネスパーソンとしての経験をお話ししたいと思います。

私は1983年に大学を卒業して日本リクルートセンター(現リクルート)に入社しました。最初の仕事は求人広告取りの営業です。大きな会社は先輩たちが担当するので私が担当したのは電子部品や中古のパソコン、解体部品などを扱っている東京・神田のジャンク・ショップなどでした。