世界に通用する超一流選手はどこがすごいのか。Jリーグがキャリア10年目の選手120人を調べたところ、相関が認められたのはメンタルやフィジカルではなく、「傾聴力」と「主張力」という2つの項目だった。Jリーグチェアマンを4期8年務めた村井満さんに、ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第17回)
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。色紙に書いた「傾聴力と主張力」の意味とは――。
撮影=奥谷仁
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。

キャリア10年目の選手を対象に調査した

――W杯カタール大会が終わり、欧州ではリーグ戦が再開しました。欧州のビッグクラブではW杯で各国の代表として戦っていた選手がベンチをあたためていたりして、改めてレベルの高さを感じます。イングランド・プレミアリーグの冨安健洋選手、三苫薫選手やスペイン・ラリーガの久保建英選手らは、そこでレギュラー争いをしているわけですから、日本選手のレベルが飛躍的に上がったわけです。ドイツやスペインに勝ったのも、フロックではないと思います。

【村井】そうですね。ではいったい、どういう選手がそういった世界に通用する超一流に育っていくのか。彼らにはどんな共通点があるのか。2016年、私にとって2回目の新人研修会で話すために、Jリーグスタッフの松沢緑さんに頼んで、2005年入会、つまりその時点でキャリア10年目の選手を対象に調べてもらいました。本田圭佑選手、岡崎慎司選手、西川周作選手らは2005年入会ですが、その世代です。

仮説はあったんですね。「心技体にずば抜けた選手だろう」と。心なら、例えばW杯本大会でも冷静でいられるような強靭なメンタルや、人並外れた闘争心。技なら正確なシュートや巧みなドリブルや足元にピタリと止めるトラップ。体なら90分走りきるフィジカルや圧倒的なスピードやジャンプ力。

50項目を比較して浮かび上がってきたのは…

ところが2005年に入会した120人を対象に調べたところ、10年間で大きく飛躍した選手とそうでない選手の間に、大きな差異を見つけることはできませんでした。そもそもJリーグに入る時点で一定程度の力は持っているわけで、調査は一度、そこで挫折してしまいます。

【連載】「Jの金言」はこちら
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しかし私はリクルートで職業適性検査とか社会人基礎力検定とかの知見がありましたから、そうしたパラメーターで評価してみたらどうなるか。再度、調査をしてみたのです。今度は分析力、クリエイティブ力、想像力、計画力、規律性、柔軟性など50項目くらいについて、大きな成功を納めた選手とそうでない選手を比べてみたのです。

すると成功した選手の中で圧倒的に相関係数が高い項目が2つ見つかりました。「傾聴力」と「主張力」です。