箱根駅伝2023は駒澤大学が勝ち、悲願の3冠を果たした。レース中、選手を厳しくも愛のあるゲキで鼓舞していた大八木弘明監督は優勝会見で3月に退任することを表明。スポーツライターの酒井政人さんは「大八木さんは頑固一徹のイメージがありますが、柔軟な面もあり、ひとつの成功スタイルに当てはめずに各選手のカラーに合わせて育て、8人もの教え子を世界選手権や五輪に送り出した名伯楽です」という――。
総合優勝し、記者会見する駒大の大八木弘明監督=2023年1月3日、東京・大手町[代表撮影]
写真=時事通信フォト
総合優勝し、記者会見する駒大の大八木弘明監督=2023年1月3日、東京・大手町[代表撮影]

大八木節炸裂「白バイを抜け」「追え、追え、追えだぞ」

第99回大会の箱根駅伝は駒澤大が完勝した。10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝に続く優勝で、悲願の“3冠達成”となる。

レース直後、タスキをつないだ10人の選手とともに登壇した大八木弘明監督(64)。往復計200km余りを疾走する選手の後方から「男だろ」「信じてるぞ」といったゲキを飛ばすことで知られる大八木だが、今回もそうした“定番”のセリフに加え、「白バイを抜け」「追え、追え、追えだぞ」「何がガッツポーズだ! バカヤロー!」といった“名言”で選手を鼓舞し続けた。

優勝校会見は例年通りに進んだが、最後にサプライズがあった。監督自らマイクを握り、こう語ったのだ。

「私事なんですけど、今年で監督を退きますので、よろしくお願いいたします。3月で終わりですね。藤田(敦史)と代わります」

母校・駒大の指導者になって29年。学生駅伝で27ものタイトルをもたらした男の引き際だった。このタイミングでの退任について、大八木は中国の古い詩の一節にある「百里を行く者は九十を半ばとす」という言葉を使って、現在の心境を明かした。

「箱根駅伝は来年、100回大会を迎えますけど、その前の99回で半ばとして新たな世界に私自身が入っていきたいなと思ったんです」

もう1年やれば指揮官になって30年。65歳という年齢で第100回の箱根駅伝を迎えることになる。完璧な節目となるような気がするが、大八木にはやり残したことがあるという。いや、2023年からスタートしなければいけない「ラストチャレンジ」があるのだ。