「前のめり」に聞き、堂々と主張する力
――聞く力と主張する力。一見、矛盾しているように思えます。
【村井】そこが面白いところですね。まず「傾聴力」。私はこれを「体を前のめりに傾けて聞くこと」と定義しています。聞くだけでなく、前のめりに、というアクションが入っているわけです。例えば、要点をメモするとか、「本当かな」と疑って調べてみるとか。
――わかる気がします。私は20年以上、ボランティアで少年サッカーのコーチをしていますが、小学校を卒業してJリーグの下部組織にいくような子は、みんなを集めて話をする時、私の一番近くにいて、こちらの目をまっすぐに見てきます。内容によってうなずいてみたり、首を傾げたり。はっきりリアクションする特徴があります。
【村井】そう、傾聴の極みというのは「あなたはそう言うけど、僕はそう思わない。僕はこう思います」と主張することです。勇気を持って主張してみると、その倍くらいの答えが返ってくる。この傾聴と主張のサイクルを高速で回している選手が、成長していくのではないかと思います。
「あいつはわかってない」と他人に矢印を向けない
例えば、監督と意見が合わなかった時「あの監督、わかってねえ」ではそこで終わりです。この監督は自分に何を求めているのだろうかと傾聴し、理解して自分の引き出しを増やしていく。その上で自分の考えを主張して、自分がより生きる環境を勝ち取っていく。「あいつは分かってない」と他人に矢印を向けるのではなく「俺には何が足りないのか」と自分に矢印を向けるのです。
――本田選手や岡崎選手はいずれも若い頃、それなりの挫折を経験しています。
【村井】そうですね。本田選手は中学時代、ガンバ大阪ジュニアユースに所属していましたが、ユースに上がれず星稜高校に進みました。同学年の家長昭博選手は昇格しています。岡崎選手は高校選手権で全国ベスト4になり清水エスパルスに入りますが『鈍足バンザイ! 僕は足が遅かったからこそ、今がある。』(幻冬舎)という本を書いているくらい足が遅かった。大久保嘉人選手は2015年にJリーグ史上初の3年連続得点王になりましたが、その年日本代表に呼ばれなかった。
前にも話しましたが、サッカーというのはミスのスポーツなので、どんな一流選手でもミスをします。そのミスがゲームの大事なところで出てしまえば、それでチームが負けることもあるし、相手のミスで自分がヒーローになることもある。ミスがつきもののサッカーは理不尽なスポーツなので、多くの選手がいろんな挫折を抱えています。また自分がどんなに結果を出していても、監督がデザインするサッカーとコンセプトが合わなければ起用されることもない。