仕事の「ミス」はどうすれば防げるのか。リクルート出身で、Jリーグチェアマンを4期8年務めた村井満さんは「ミスを恐れてシュートを打たなければゴールは生まれない。サッカーというスポーツの本質は『ミス』にある。だからこそJリーグの職員にもミスを恐れるな、と話していた」という。ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第16回)
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。
撮影=奥谷仁
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。

どの業界にも生業に由来する企業文化がある

――村井さんは人材、旅行、飲食などの情報を扱うリクルートという会社からJリーグというサッカーの業界に飛び込まれました。転職のハードルが昔よりかなり下がったとはいうものの、やはり違う業界に移るのは勇気が要りますよね。

【村井】これはJリーグに来る前から考えていたことなんですが、それぞれの業界にはその生業なりわいに由来する企業文化みたいなものがありますね。例えば、銀行。大手三行でそれぞれ個性は違いますが、経済の血液とも言われる極めて高い公共性を求められる金融業界で働く皆さんは、どこかに秩序というものに対するリスペクトがあって、そういう人たちが活躍できる土壌がある。

日産自動車は横浜F・マリノス、三菱自動車は浦和レッズ、トヨタ自動車は名古屋グランパス、マツダはサンフレッチェ広島のスポンサーをしている。なんで自動車メーカーはサッカーを応援するんだろう。もう少し広げるとパナソニックはガンバ大阪、富士通は川崎フロンターレ、日立製作所は柏レイソルのスポンサーで、パナソニックやキヤノンはラグビーを応援している。

これは例えばエンジニア間のすり合わせ技術、ブルーカラーとホワイトカラーが協働して完成品を作っていく製造業という生業が、チームスポーツと共通の文化の上で成り立っているのではないだろうか。そんなふうに考えていました。

サッカー、そしてJリーグの本質は「ミス」ではないか

それでJリーグにやってきた時、Jリーグの生業とはなんだろうかと、改めて考えてみたんです。それでいろいろと突き詰めて考えたら、サッカーというスポーツの本質は「ミス」であるという結論にたどり着きました。人間が手を使わずにやるスポーツですから、パスミス、シュートミスが当たり前に起きる。結果としてあれだけうまいプロが90分間全力で戦っても0対0ということが起こりうる。