同僚は商談を成立させて偉くなっていくが…
来る日も来る日も、お店に飛び込んで「求人広告出しませんか」とお願いするのですが、なかなかうまくいきません。採用した新人を定年まで雇用する前提に立てば、一生涯で億の単位にも及ぶ支払いをするわけですから、採用というのはとてつもなく大きな投資です。
なので、採用の判定は、中堅・中小の会社では社長が決めたりします。求人広告をじゃんじゃん取ってくるやり手の営業マンは、たいてい、採用の決定権を持つ社長や会長にトップアプローチをかけますが、私はどちらかというと、同世代の人事の担当者とお茶を飲んでいるタイプでした。
同僚たちは自分より20歳以上年上の社長を捕まえてどんどん商談を成立させ、偉くなっていきました。私はというと相変わらずで、20代、30代は結構つらい日々を過ごした記憶があります。
自分が偉くなるのが大切なのではない
ところが、自分が45歳を過ぎた頃から少し様子が変わってきたんです。私はたいして偉くはないのですが、気づくと、昔、お茶を飲んでいたお客さんたちが社長になったり大企業の偉い人になったりしていました。そして20年、30年、真剣にお付き合いしてきたその人たちが、私に新たな方を紹介してくれたりして、そうした人たちによって自分がスーッと引き上げられる不思議な引力を感じ始めたのです。
一方、同僚たちが若い頃に食い込んでいた偉い人たちはその頃は、多くがリタイアしてしまうという状況が生まれていました。
そこで学んだのは「自分が偉くなるのが大切なのではない」ということ。「人が偉くなる」のでいい。「人を偉くする」ことができたら尚更いい。自分はこんなに頑張っているのに、会社の上司だったり人事部だったりが自分の仕事をしっかり見てくれていない。そう思うことはあるでしょう。私もそう思うことがありました。
けれどお客さんは裏切りません。お客さんは皆さんの仕事をよく見ていて、そのお客さんたちが偉くなって、後に自分を引き立ててくれたり、苦しい時に応援してくれたりするのではないでしょうか。だからJリーグチェアマンの時には職員に「クラブのトップじゃなくていいから、現場のスタッフと本気で付き合ってほしい」とお願いしました。目の前の人を偉くするのが一番大事だと思います。「傍」が「楽をする」のが「働く」。これくらいの気持ちでいいのです。