中国ではAKB48、EXILEより人気者
これまでユーザー・イノベーションというテーマで連載してきた。ユーザー・イノベーションの重要性や可能性の大きさを感じとってくれている読者は多いのではないだろうか。消費者イノベーションの長所を引き出すうえでカギになるものは何か教えてほしい。そう思う人がいるだろう。
消費者イノベーションを製品開発に組み込んで市場を活性化させる。その勘所を考えるにあたって参考になるのがクリプトン・フューチャー・メディア(代表取締役・伊藤博之、以下、クリプトン社)の先進的取り組みだ。
読者は「初音ミク」をご存じだろうか。「彼女」が歌う「Tell Your World」は、昨年12月から正月にかけて米グーグルが日本人向けにブラウザーをキャンペーンするCMのBGMとして使用され話題を呼んだ(http://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q)。同曲は今年1月18日に配信がスタートし、初日に米アップルが運営する音楽配信サイトの総合ランキングで1位を獲得した。
初音ミク人気は日本だけにとどまらない。すでに世界デビューしているのだ。昨年5月、米国でトヨタが初音ミクをカローラのCMキャラクターに採用した。また、同年7月にはロサンゼルスでコンサートを開き約5000人の観客を動員している。
中国でも彼女の活躍は目覚ましい。インターネットの音楽サイトで中国の若者に人気がある「QQ音楽」の総合ランキングで初音ミクの「葱歌(levan Polkka:フィンランドの伝統的民謡)」は中国人歌手の楽曲にまじり4位にランクされている(2011年4月)。つまり、中国で今、一番有名な「日本人歌手」はAKB48でもEXILEでもなく、初音ミクなのだ。
これほどの人気を得ている初音ミクだがプレジデント誌の主要ターゲットである読者には馴染みがないかもしれない。ネットで「初音ミク」を検索し動画で初めて「彼女」を見た人は驚くかもしれない。
実は初音ミクは「実在する人間」ではない。パソコンで歌を作る音声合成ソフトの商品名のことなのだ。
初音ミクを世に出したクリプトン社(1995年7月設立)は、もともとは、テレビ番組や映画、ゲーム向けに効果音などの音源を販売する会社だった。同社が持つ音源は100万種類を超え、効果音販売で現在、国内市場シェアの6割を占める。ただし効果音販売は専門家向けニッチ市場のため市場規模が小さく、せいぜい10万人のお客を対象とするものだった。