ところが製品は売れなかった。伊藤は製品が売れない理由の一つに製品から出る音をイメージできないことがあるのではないかと思った。一般的に、それまでの仮想楽器の場合、商品パッケージにはギターならギター、ピアノならピアノの絵が印刷されていて、商品の音をイメージできた。しかし、ボーカロイドの場合、初めての商品で、しかも既知の楽器と違い、音源が人なので商品が出す音がどんなものかイメージしづらかった。そのうえ、LEONとLOLAのパッケージに描かれていた絵は「唇」だった。そこで伊藤は同年11月に日本語で歌声を演奏するボーカロイドMEIKO(女声:音源プロ歌手)を発売する際、パッケージにアニメ風の女性がマイクを持ってジャンプしているイラストをつけた。

実は発売開始時の周囲の反応はそれほど芳しいものではなかった。そもそも仮想楽器は音にこだわるプロの音楽家にすればニセモノで、ボーカロイドに対しても同様な印象を持たれていた。音楽専門誌にも製品の紹介を断られた。

しかし、販売結果は目を見張るものだった。仮想楽器市場では1000本売れたらヒットだといわれる。それが約3000本の販売数を記録したのだ。音楽の専門家から見向きもされずにこれだけ売れるのはきっとプロ以外の新しい顧客層が買ってくれたからに違いないと伊藤は思った。

ボーカロイドを楽しんでくれるお客はパソコン上で自分が作った曲を女の子に歌ってもらいたいと思う人やアニメに興味がある人ではないか。そうする中、06年の年末にテストサービスを開始した動画共有サイト「ニコニコ動画」に自分が作った曲をMEIKOに演奏させて投稿する者が現れ始めた。