これまで消費者イノベーションの普及・製品化にいたるルートは主にユーザー・コミュニティによる単線のものであった。だが「3D印刷」の普及によって、それが複線化していると筆者は説く。米国の最新事情を紹介する。

欲しい製品案を自分で作れるのは100人中約5人

今年3月から5月にかけて米MITで在学研究をしてきたので、そこで得た米国の消費者イノベーション事情を今回は紹介しよう。

コミュニティに属している消費者のイノベーションが普及しやすいことは、以前、本連載で紹介した。他方、大半の消費者イノベーションがコミュニティに属さない個人消費者によるものであることも事実だ。他の消費者も欲しくなるイノベーションでありながら本人のレベルでとどまっているものがあるとすれば残念な話だ。

Thingiverseは個人消費者が創作した作品を他の人に自由に見てもらうためのオンライン・サイトだ。このサイトでは消費者が自分で創作したものを投稿する。投稿された作品には他の消費者がコメントを書き込むことができ、自分の創作物に対する他者の評価を知ることができる。サイトではデザインや製造技術に関する最新情報も知ることができる。本来なら個人のレベルでとどまっていたかもしれない消費者イノベーションが他の消費者や企業の目にとまる機会を提供し、個人消費者によるイノベーションの普及を促進する働きをしている。

Thingiverseは、消費者がすでに創作したものを投稿するサイトだが、自分で製品を作ることができる消費者は多くない。筆者の消費者イノベーション調査の結果で言えば、その割合は100人中五人前後だ。解決したい問題がわかっていても、ぼんやりと欲しい製品案が浮かんでいても実際に製品仕様にまで落とし込める消費者は少ないのだ。

製品を創る方法も知らないし、コミュニティにも属していない。しかし、既製品では満たされないニーズがある。そんな消費者が他者の助けを借りながら欲しい製品を商用化していくサイトとしては日本のエレファントデザインが世界的先駆者だ。

同社のサイトで消費者は自分が欲しい製品案を投稿する。その案を他の消費者の意見を通じて磨きをかけながらエレファントデザインが複数の製品デザインに落とし込んでいく。消費者の投票で選ばれた製品デザインを最終的に製品化するかどうかは最低限必要な購入予約数が集まるかどうかで決まる。このように、個人消費者の製品案がまるでコミュニティの中で製品イノベーションとして育っていくかのように商用化される仕組みを構築しているところに同社の特徴がある。