東京電力・福島第一原発事故によって、日本のエネルギー政策はゼロベースで見直されている。石炭ガス化複合発電(IGCC)などの実用化が進展すれば、温室効果ガス削減目標を実現できると筆者は説く。
今後の電源構成を決める「三要素」
昨年の東京電力・福島第一原子力発電所事故によって、わが国のエネルギー政策はゼロベースで見直されることになったが、見直しに当たっては、政策立案に影響を与える不確実性が高い要素が3つある。それは、
(1)太陽光、風力など再生可能エネルギーを利用する発電の普及につながる技術革新がどこまで進むか、
(2)民生用を中心にして省エネルギーによる節電が行われ電力使用量がどの程度減少するか、および、
(3)石炭火力発電のゼロ・エミッション(二酸化炭素の排出量ゼロ)化につながるIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素回収・貯留)などの実用化がどれほど進展するか、
という3要素である。
エネルギー政策の基幹となる今後の電源構成を決める際に独立変数となるのは、これら(1)~(3)の要素である。原子力発電のウエートは、(1)~(3)の進展度合いによって、別の言い方をすれば「引き算」によって決まるのであり、原子力発電そのものが独立変数になるわけではないのである。
3つの要素のうち(3)の「石炭火力発電のゼロ・エミッション化」について詳しく掘り下げているのは、経済産業省総合資源エネルギー調査会鉱業分科会クリーンコール部会が2009年6月にまとめた報告書「我が国クリーンコール政策の新たな展開2009」である。同報告書は、図1のような「高効率石炭火力発電の技術開発ロードマップ」を掲げている。これらのロードマップにもとづき、技術革新を実現することによって、将来的には、「ゼロ・エミッション石炭火力発電」を実現しようというのが、「我が国クリーンコール政策の新たな展開2009」の最終的なねらいである。
現在、中国電力とJパワー(電源開発)は、折半出資で大崎クールジェンを設立し、中国電力大崎発電所の敷地でIGCCの実証試験を始めようとしている。Jパワーは、02年度から13年度にかけて福岡県北九州市で、石炭使用量150トン/日規模の酸素吹き石炭ガス化技術パイロット試験(いわゆる「EAGLEプロジェクト」)に取り組んできたが、その成果をふまえて大崎クールジェンは、広島県大崎上島町の瀬戸内海に臨むこのサイトで、石炭使用量1100トン/日規模、発電出力17万キロワット級の酸素吹きIGCCの実証試験を実施しようとしているのである。