かつて世界第1位だった日本のODA実績だが、近年では国際的に地位を低下させている。ジャカルタで日本のODAプロジェクトの現場を訪問する機会を得た筆者が見たものとは――。

実質GDP成長率6.5%のインドネシア

今年の夏は、大学のサマースクール(Euro-Asia Summer School)とMBA金融プログラム海外研修の日程が一部重なったために、サマースクールの第2週が行われたベルギーのルーベン・カトリック大学から帰国すると、すぐにMBA金融プログラム海外研修を行っていたジャカルタに飛んだ。気温摂氏20度のベルギーから気温摂氏30度を超えるジャカルタ入りだったので気温差と時差に悩まされながらも、学生たちとジャカルタにある企業などを訪問した。

インドネシアは、1997~98年のアジア通貨危機以降、経済の回復が遅れていたものの、2000年代半ばになってようやく経済が回復し、近年ではむしろ経済は好調である。また、東アジアの他の諸国と比較しても、インドネシア経済は、世界金融危機の影響をそれほど受けず、著しい経済成長を遂げている。たとえば、世界金融危機の影響を受けた隣国、シンガポールとは好対照である。世界金融危機直後の09年の実質GDP成長率は、シンガポールやマレーシア、タイでは軒並みマイナス成長となったにもかかわらず、インドネシアでは4.6%であった。また、11年の実質GDP成長率をインドネシアとシンガポールで比較すると、シンガポールが4.9%であるのに対して、インドネシアが6.5%となっている。

そのためか、以前は、東京とシンガポールを結ぶフライトにフラットシートのある機材が使用され、ジャカルタ線にはフラットシートがなかった。しかし、フラットシートのある機材はシンガポール便からジャカルタ便に移ったようである。世界金融危機のシンガポールへの影響とインドネシア経済の好調さが飛行機のシートにも表れている。

今回の海外研修では、例年と同様に日系や地元の金融機関や製造業を訪問したほかに、ジャカルタに本拠地を置いている東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局と東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)を訪問した。さらに、ERIAのチーフ・エコノミストも兼任されている木村福成慶應義塾大学教授のご紹介で、政府開発援助(ODA)のプロジェクトの現場であるジャカルタ漁港をも訪問した。

地道に相手国の経済発展を支えるプロジェクトとは

ジャカルタを訪問する直前にサマースクールでブリュッセルにある欧州連合(EU)の欧州委員会を訪問したので、ここでEUの経済統合とASEANの経済統合を比較したいところではあるが、本題のODAの話題に入りかけてはいるものの、なかなか話が進まないので、一言だけ触れることにとどめ、詳細は別の機会に取り扱いたい。

一言で言えば、EUはリジッド(硬直的)な経済統合であるのに対して、ASEANはソフト(柔軟)な経済統合である。そのリジッドな経済統合をめざしているEUにおいては、ユーロ圏の一部の諸国において10年にギリシャで財政危機が発生し、それがポルトガルやアイルランドなどに波及している。ギリシャ財政危機が発生してから3年が経とうとしているが、なかなか収束する気配が見られない。そのため、ASEAN事務局はことのほか、ASEANはEUと違うことを強調していた。ASEANをEUと差別化することによって、欧州の危機がASEANに波及することを抑えたいかのようである。