ユーザー・イノベーションの研究はいかにして始まったのか。創始者へのインタビューから解き明かす。

幼少期から発明家であることをこよなく愛す


MITのエリック・フォン・ヒッペル教授(右)と彼の著書『イノベーションの源泉』(88年)(左)。

ユーザー・イノベーション研究の創始者、エリック・フォン・ヒッペル(マサチューセッツ工科大学〈MIT〉教授、以下、エリック)の話をしよう。彼はこれまでのイノベーション研究人生で何を見て、どのように考え、研究を行ってきたのだろうか。

「僕はこれまでいつも発明家であろうとしてきたんだ」。この春、MITにある彼のオフィスでインタビューを始めたとき、最初に出た言葉がこれだった。

「小さいとき、家族はニューハンプシャーに丸太小屋を持っていて、そこでチェーンソーで木を切ったり燃やしたりしてたんだ。父さん(エリックの父はアーサー・フォン・ヒッペルといってノーベル賞級の仕事をした、MITの有名な物理学者だった)はとても上手にしてたよ。その姿を見て僕は半自動で動くチェーンソーを発明したんだ。父さんは危ないからといってやめさせることなく、進んで手伝ってくれたよ」

「高校のときには新しいテープレコーダーを発明したよ。テープレコーダーって最初はリールが2つあったんだ。それが後になって、カセットテープレコーダーのように1つのリールで録音・再生できるようになったんだ(ススム、覚えてる?)。僕が発明したのはそのカセットテープレコーダーみたいなもので、1つのリールで録音・再生できて、カセットテープよりも省スペースで小型化されたものだったんだ。あるコンサルティング・ファームにデザイン案をもっていったら採用されたよ(笑)」

幼少期から、発明家であることをこよなく愛すエリックはその後、ハーバード大学の経済学部に入学する。しかし、(彼の言葉によれば)そこで「発明」が話題に出ることはなかった。そこで彼はMITの機械工学の修士課程に進むことにする。

文系から理系に進学するのは難しいのでは(日本ではあまり考えられない!)?と彼に聞くと「数学はあまり得意じゃなかったけどね(笑)。でもそんなに大変じゃなかったよ」という返事。

その後、エリックは修士課程修了後、知人数人とベンチャー企業を設立する。ただ、会社経営に携わりながらも彼は自分が本当に取り組みたいことは何なのだろうと考え続けていたという。

イノベーションが生まれる仕組みを知りたいと思うようになったこと、自分の父が研究者であったことやフォン・ヒッペル家の歴史(学者になる人が多く、実際、彼以外にも兄弟のうち2人が学者になった)、そうした理由が重なり、エリックは研究者になる道を目指そうと決意する。