人員削減と大型投資を同時に行う企業が増えてきた。社員は企業の構造改革や戦略転換における駒の一つとみなされる傾向にある。経営者が戦略的な意思決定をするためには、人という経営資源のもつ複雑さを考える必要があると筆者は説く。

日本の経営者の人材への考え方は変わってしまったのか

3年前、私は、このコラムで以下のような文章を書いた(http://president.jp/articles/-/1886)。

《企業業績が急激に悪化する中で、企業による素早い雇用調整が始まった。もちろん、バブル経済崩壊直後に比べれば、いまだ大規模ではないし、また、これを書いている時点では、雇用調整の主なターゲットは、派遣労働者、期間従業員など、いわゆる非正規労働力が中心だ。

ただ、正直にいえば、今回非正規雇用に手をつけるスピードと、その徹底ぶりについては、私自身も少し驚いている。そしてそこから受ける印象として、バブル経済崩壊からの回復過程で、わが国の経営者の人材とか雇用に関する考え方が少し変わってしまったのではないかという感覚がある。

(中略)

もちろん、これはあくまでも非正規労働者に対しての考え方であって、本当に守りたい存在である、正規従業員の場合は違うという主張も成り立つ。非正規労働力は需要変動に対応するためのバッファーであって、人的資本としての正規従業員の雇用は守り抜くという予想もできる。

本当にそうなのだろうか》

リーマンショック直後に企業が行っていたいわゆる「派遣切り」など、非正規社員の削減を目の当たりにしての感想だが、現在、今度は正社員がターゲットになっている多くのリストラを見ると、再びこの問いが頭をもたげてくるのである。

現在、規模はそれほど大きくはないが、人員削減を行っている企業は多い。実際、東京商工リサーチが毎年行う上場企業を対象にした調査によると、今年1月以降、6月7日現在で希望退職・早期退職者の募集を実施した主な上場企業は、具体内容が確認できたものだけで33社を数え、前年同期の31社に比べ2社増となっている。調査は、12年1月以降、希望退職、早期退職者募集の実施を開示し、具体的な内容が確認できたケースを抽出している。情報公開日で見ると、募集実施企業は4月が9社、5月が8社の2カ月間で半数の17社を占め、直近にきて増加の兆しを見せている。

予想されることだが、産業別で最も多かったのは電気機器の8社で、次に小売りの5社、情報・通信の3社、精密機械の3社である。