ただ、意識しておかないとならないのは、企業経営の中で、縮小するところと拡大するところが明確に区別され、一方では人員削減を行い、もう一方では投資を行い、人を雇う。こうした戦略的な選択がこうした構造改革の背後にはあることである。
つまりこれらの企業は自社の雇用を守るという選択と、他社へ投資し、その事業に参加することで間接的にその会社の雇用を守るという選択とをバランスさせ、資源配分を決定したのである。自らの構造改革の中身として、自社における一定の雇用削減と、他社への投資を組み合わせるということが選択されているわけである。
米国で行われた研究によれば、米国では1980年代の不況を境目に、多くの企業が構造改革のために、縮小部門の人員削減と拡大部門での採用を同時に行うことが一般化したことがわかっている。上記のような事例を見ると、これに類する決断に対して、日本の企業が、以前よりも前向きになった感覚をもってしまうのである。
企業の構造改革には、しばしば「資源の再配分」が伴う。構造改革では、戦略の変化と事業の再編成に伴い、ある事業に投資した資金などを引き揚げ、他の事業に移動することが行われるのである。またある事業の人員を削減し、別の事業に移しかえることも多い。逆にこうしたアクションがなければ構造改革は進まない。そして人を含む資源の再配分においては、多様な資源の価値が比較され、最も企業にとって好ましい組み合わせが選択される。
だが、ここで重要なのは、こうした資源の再配分を決定し、実行する中で、お金に換算した価値は同じであったとしても、多面的な見方をすると、すべての資源は同等ではないということである。
例えば、経営学者ジェイ・バーニーの提唱したVRIOの枠組み(図参照)を用いれば、経営資源の価値は、その資源がそのビジネスでもつ経済価値(Value)、希少性(Rareness)、模倣可能性(Imitability)、資源組織化の程度(Organization)などで評価することができる。経済価値とは、顧客に価値を提供するビジネスモデル内のその資源の位置づけであり、模倣可能性とは、同レベルの資源人材をつくり上げるのにかかる時間と手間がどれだけかであり、希少性は、どれだけ外部(市場)から調達することが可能なのかに関する評価である。また組織化の度合いは、その資源と他の資源の関連の度合いがとどれだけ密接であり、資源間の相乗効果が高いかどうかである。人に置き換えると、スキルは同じでも、特定の人とタッグを組むと、すごいパフォーマンスが出るケースなどを考えれば理解しやすいかもしれない。