CM出演者選定の決め手
――そこまでとは思いませんでした(笑)。西山さんは顔の表情がよくなると印象が変わるということを、タレントではなく一般の方で実感をもって見せようとしたわけですが、出演者をどのように選びましたか。
【西山】CMに出演しているのは、一応、モデル登録をしている人たちなんですね。オーディションをするにあたり、まず全員に商品のサンプルを送り、使った感想を文章で書いてもらいました。そこで本当に効果を実感している人を7~8人選び、次にその方々に対して、「使った感想を言ってみてください」とお願いして、動画を撮影しました。そのときの表情や、にじみ出るものが視聴者の方に伝わるかどうかという観点で選びました。もちろんスキンケア商品ですから、最低限の肌の状態や清潔感なども確認しています。
とはいえ、リアルを強調するからといって、通販の健康食品のCMのようにユーザーの自宅で普段着のまま登場してもらうというのは厳しい。外見に関する商品ですから、「この商品を使うことによって毎日に自信が持てそう」とか、「これがあると気分が上がる」と思ってもらうのは、男女問わず大事なポイントです。直感的に「これ、ほしい」と思う気持ちや、商品を手にしたときの高揚感をもってもらいたい。ですからそこのバランスをとるのが非常に難しかったのですが、一般的な化粧品に比べれば、相当生活者寄りというか、親しみがあるというか、近い距離感のものができたと思います。
社内会議で収拾がつかなくなることも…
――西山さんよりも、おそらく社内の上層部の方のほうが、ターゲット年齢に近いですよね。企画を上に通すとき、「いや、俺はこうだ」「ターゲットの気持ちはこうだ」というように、逆にうんちくを言われたりしたのでは。
【西山】まさにそうでした(笑)。上層部のいる会議では、ほとんどの方がターゲット男性です。ですから女性向けの商品のときはあまり意見を言わないのに、「値段はもっと安いほうがいい」とか、「もっとカッコいい俳優を起用しよう」とか、活発な発言がありました(笑)。
もちろん意見を言ってもらえるのはありがたいことですし、そこで気づけたこともたくさんありましたが、収拾がつかなくなることもあります。そういうときは、「私は100人以上のお客さまの意見を聞きました。自信を持って、お客さまはこれを求めているといえます」と主張して納得してもらいました。
実は発売前に、社内でも「10日間チャレンジ」と題して役員レベルの人たちに商品を試してもらったんですよ。調査会社のインタビュー調査って、みなさん、こちらがうれしくなるようなことを言ってくれるでしょう。報酬ももらうし、答えたいと思っている人たちですから当たり前ですが。だからさきほど申し上げたように、100人以上調査して、効果を感じた方が90%いたというのも、私自身はあえて話半分で聞いていたんです。でも最後に、社内の偉い人たちに使ってもらったら、80~90%の人が良さを体感したという結果が出た。そのとき初めて、「あの厳しい人たちがこう言うということは、これは世の中でも受け入れてもらえるかもしれない」と確信できました。
取材を終えて 桶谷功より
VARONのCM「告白 47歳」篇で、使用者の男性が「恥ずかしー」と叫ぶシーンがありますが、やはり初心者の中高年男性にとって、スキンケアをするというのは照れくさいし恥ずかしいもの。その抵抗感を弱める意味で、女性イメージの強い化粧品メーカーではなく、ウイスキーなどで男性になじみのあるサントリーがその強みを活かし、スキンケアを初めて試した男性の実感に寄り添ったアプローチをしたのが大きかったのではないでしょうか。
使用実感を大切にし、タレントを使わずテスティモニアル方式(使用者の推奨)で訴求して、ここまで大成功。今後も、実直に地道にユーザーを獲得していってほしいと思います。しかし、2025年までの売上目標50億円は、サントリー全体の事業規模の中では微々たるもの。売れ行きが好調だと、ついビールのように大物タレントを起用して、マス広告で一気に売り上げを伸ばせ! なんて指示が上層部から出ないことを願うばかりです。