目標の4倍の売れ行き
近年、さまざまな分野で生じる消費者変化。クルマも例外ではないようです。
一般には、コロナ禍でマイカーを欲しがる人が増えた、との見方もあります。2022年、コロナ禍で実施された調査でも、「公共交通機関を避けるために(今後クルマを)利用したい」との回答が、約1割にのぼりました(デロイト トーマツ グループ調べ)。
一方で、コロナ前から、クルマの買い替え需要は落ち込む傾向に。22年現在、乗用車(新車)の買い替え年数(スパン)は、2人以上世帯で9.2年。30年前(5.5年)に比べ、なんと4年弱もスパンが延びたのです(22年 消費動向調査)。
買い替えが鈍れば、その分の需要は減る。自社ブランドに、新たなシリーズやタイプを加えるとなれば、「これまでとまったく別の、新規ターゲットを狙いにいこう」「顧客の裾野を、一気に広げよう」と考える企業も少なくないでしょう。
ところが、「ムーヴ キャンバス」(ダイハツ工業)は違いました。
22年7月、フルモデルチェンジを行う際、従来のファンが抱く「かわいらしい」といった思いや愛着を尊重。そのかいあってファンから口コミも広がり、発売後わずか1カ月で約2万6000台を受注しました。これは当初月販目標の4倍に当たる数です。
ユーザーの約9割を占める女性を徹底調査
初代ムーヴ キャンバスの発売は、2016年9月。もともと女性ユーザーが多いダイハツですが、オシャレな軽トールワゴンである同車種は、なんとユーザーの約9割が女性。
人気を集めた背景には、ターゲット女性たちへの徹底したマーケティング調査があったようです。
「近年、クルマの価値は所有そのものより、所有によって広がる『生活や体験』に置かれる傾向にあります。だからこそ私たちの会社でも、ターゲットの生活実態に寄り添った開発を重視しています」と話すのは、同営業CS本部・国内商品企画部の李晃潤(リ・ファンユン)さん。
初代の開発過程では、ターゲットの「ポスト・ロスジェネ(氷河期第2)世代」(当時の20、30代)の女性を中心に、全国各地で数百人にグループインタビューを実施。
その結果、彼女たちの多くが、自分磨きや女性らしさを重視し、愛らしいモノを好む傾向にあることが見えてきた。
また晩婚化が進むなか、親と同居するシングル女性の多くは、クルマも家族(おもに母親)と共用。購入段階でも、彼女たちとそのお財布を握る両親、その双方の意見の一致が大切であることが分かりました。