新デザイン案に女性たちからの反発の声
そこで、フルモデルチェンジでは、「ターボエンジン」をラインナップに加えようと決断。さらに、大人世代や男性ユーザーも意識して「もう少し『上質感や落ち着き』を感じさせるシリーズも追加しよう」と考えたそうです。
多くの企業はこの段階で、まず初めに新規顧客へのアプローチや新たなターゲットに向けたデザインの追究に入るのではないでしょうか。
ところが、ダイハツは違いました。それまで築いてきたポジションを確固たるものにするため、まずは守るべき既存顧客の20、30代女性を開発ターゲットの中心に置き、何度も意見を仰いだのです。
このとき、松田さんたちが意識したのは「かわいらしい」の進化でした。
たとえば、ファッション。以前のようにケータイや雑貨を“デコる”文化は去り、ゆったりとした自然体の洋服やムリしすぎないペタンコ靴などが人気を集めるようになった。
現代では、より「自然体・健康・快活」といったことが重視されるようになり、愛らしいながらも「すっきり・洗練」された清潔感あふれるデザインこそが、等身大の自分らしさを大切にする女性たちに受け入れられるのでは、と考えました。
ところが、既存顧客にデザイン案を見せると、初めは「すっきりしすぎてスポーティ」「(ムーヴ キャンバス)らしくない」と反発する声が次々と上がったのです。
「かわいらしさ」と「かわいすぎない」の境界線はどこか
彼女たちは、このクルマのファンであり、おそらくこれからも家族や周りに薦めたいとの思いを強く抱いていた。だからこそ、「ムーヴ キャンバスらしさ」にこだわったのでしょう。
松田さんたちは、悩みました。既存顧客が求める「かわいらしさ」と、潜在(将来の)顧客が求める「かわいすぎない」の境界線はどこか。
その境界線を見極めるために、何度もデザイン画を描き直してもらい、そのたびに女性たちに意見を求めたそうです。