この大学は「教室内での学習は30%、70%は外の世界で」というコンセプトで、村や企業、行政と組んで課題のある現場へ赴き、解決に取り組む。ソナムさんは「私たちは教育を通して、地域や環境の課題解決に若い学生を巻き込んでいるのです」と嬉しそうに語った。
超高齢化が進む日本は、課題先進国と言われる。セクモルスクールやHIALで教えているように、3Hを持って課題解決に挑む若者が必要だ。そういう人材はどのように育成したらいいのだろうか? ソナムさんは、課題を解決する人間に求められるのは好奇心、共感性、率先力だという。
子どもたちには失敗できる環境が必要だ
その3つのなかでも、ソナムさんは過去のインタビューで「好奇心はもともと子どものなかに備わっているソフトウエア」「子どもの好奇心を殺さないように」と語っているように、好奇心を特に重視している。「日本の子どもも基本的に、学校ではイスに座って先生の話を聞いている」と説明し、子どもの好奇心を損なわないためになにが必要ですか? と尋ねると、穏やかにほほ笑んだ。
「理想を言えば、学校が変わるべきだと思います。自由を与え、クレイジーなアイデアを出したり、くだらない質問をする余裕を与えてください。私たちが2本足で歩けるようになるまでに1000回は転びます。教育も同じで、子どもたちは失敗しなくてはいけないのです。だからこそ、笑われることなくくだらない質問ができて、失敗する余裕が必要です。もし学校でそれができないのであれば、親ができるかぎりその余白を与えてあげてください。森でもいいし、工場でもいい。彼らが学校の外で好奇心に従って学ぶのを手助けするのです」
日本とインドの共通点は少ない。教育環境だけでなく、人口規模も、国土の広さも、文化も、経済成長率も、大きく異なっている。
それなのに、インドの教育改革家、ソナムさんの言葉はどれも納得できるもので、考えさせられ、胸に沁みた。それはきっと、「子どもを健やかに育て、それぞれの才能を大切にしたい」というソナムさんの教育者としての想いが、日本人の僕らにとっても共感できるものだからだろう。
僕らが取材に行った日、セクモルスクールの子どもたちは大人と協力して小屋を建てたり、突然の訪問者に対応し、学校を案内したりしていた。「落ちこぼれの学校」の生徒は眩しく見えた。