地域の水不足を解決したアイデア

山を流れる川の水をパイプで村まで引き込み、高低差を利用して垂直に立てたパイプから噴水のように水が噴き出すようにする。冬のラダックでその水はすぐに凍りつき、高さ20メートルを優に超える円錐状の巨大な氷になる。

その巨大な円錐形の氷の塊を仏塔(ストゥーパ)に例えて、アイスストゥーパと名付けた。ソナムさんが2016年に完成させたアイスストゥーパはその年の6月まで残り、100万リットルの水を供給し、農作物の灌漑用水として使用された。2016年に授与されたロレックス賞は、この卓越した取り組みを評価してのものだ。

ノウハウが確立すると、ソナムさんは賞金付きの「アイスストゥーパ・コンテスト」を開催。これは村人たちが自力でアイスストゥーパを作り、どれだけたくさんの水を確保するかを競うもので、2019~20年の冬には16の村が参加。この年に優勝した村はなんと850万リットルの水を蓄える超巨大アイスストゥーパを作り上げた。

「私たちはお金もリソースもないので、たくさんのリソースが必要のない解決方法を考えるのが好きなのです。もともと人工氷河を作るアイデアはありましたが、いかに長く保たせるかがポイントでした。さまざまな日除けを検討したもののどれも実用的ではなく諦めて、太陽が当たる表面積をできる限り小さく、かつ大容量で保存できる形状として円錐という答えにたどり着きました。アイスストゥーパを作るのに必要なものはパイプと山の急斜面だけ。お金があると脳みそよりお金を使いがちですが、いつもお金が必要というわけではないのです」

セクモルスクール
撮影=齋藤陽道
塩水を入れたペットボトルは優れた断熱材になる。
セクモルスクール
撮影=齋藤陽道
冬の間、野菜を育てる温室。蓄熱のために黒い紙をまいたペットボトルが吊るされている。
セクモルスクール
撮影=齋藤陽道
さまざまな塗料と素材を日光に当て、「(蓄熱効果の)違いを感じて見て」と記されている。
セクモルスクール
撮影=齋藤陽道
キャンパスではあらゆるものが分類され、リサイクル、リユースされている。

「3H」を掲げる大学を設立

ソナムさんの存在は、セクモルスクールの子どもたちにどのような影響を与えているのだろうか?

卒業生のなかには、10年生を5回も落第した後にセクモルスクールに入学し、自分の進む道を見つけてジャーナリストになり、政治家に転じて教育に携わっている人もいるという。

セクモルスクールで変わっていく10代の子どもたちを見てきたソナムさんは、ラダックでセクモルスクールの理念「3H」を共有する新しい形の大学HIAL(The Himalayan Institute of Alternatives, Ladakh)を立ち上げた。