イタリアンファミレスチェーンの「サイゼリヤ」は、価格に対して顧客満足度が高く、「コスパが良い」と評されることが多い。いったいどんな経営をしているのか。日本フードサービス協会顧問の加藤一隆さんの著書『「おいしい」を経済に変えた男たち』(TAC出版)より紹介する――。
サイゼリヤ 名古屋市中区役所前店
サイゼリヤ 名古屋市中区役所前店(写真=HQA02330/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

なぜサイゼリヤは圧倒的コスパを実現できているのか

私はサイゼリヤが外食産業の現時点での完成形だと思っています。つまり、安さとおいしさの両立です。「お客さんが満足してくれれば利益はあとからついてくる」と正垣泰彦会長本人は言いますが、そこには垂直統合による計算しつくされた科学的な合理化と、血のにじむような努力がある。単なる値下げ競争ではありません。だからこそ、若い人にも「サイゼはコスパがいい」と人気なのです。

サイゼリヤの強さの理由は、なんといってもその価格と顧客満足度の高さです。2021年度に日本生産性本部が行った顧客満足度調査の飲食部門で「餃子の王将」と並んで1位に輝きました。つまり、消費者の多くがサイゼリヤの料理に価格以上の価値があると考えているということです。

もちろん、サイゼリヤがワインから前菜、メイン料理までをリーズナブルな価格で提供できるのには理由があります。一言で言えば「徹底的なコストの削減」ということですが、しかし、そこには一言ではとても言い表せない、血のにじむような努力があります。

それを創業者の正垣泰彦会長は理科系の出身者らしく「エネルギー不滅の法則」だと言います。もちろん、物理の法則そのものを示しているのではありません。お客さまに1円でも安く提供するために、素材の仕入れから、輸送、加工、店舗オペレーションまで、あらゆる段階でエネルギーを注げば、そのエネルギーは必ず価格や価値に無駄なく反映されるという意味です。

サイゼの歴史=内製化

近年のサイゼリヤは自身の業態を「製造直販業」と規定しています。

ユニクロが取り入れて有名になった業態で、原材料の仕入れから製造、販売までを商社や加工・製造業者などを使わずに、ほぼすべてを自社で行います。サイゼリヤは、すべてではありませんが、それに挑戦しています。流通のしくみの改革に挑んでいるのです。

レストランチェーンの一般的な物流は、生産者を起点として、生産者→食品商社→卸・問屋→食品メーカー(加工業者)→物流・配送センター→小売り・レストラン、といった形態をとるのが一般的です。

各工程を別々の会社が担うため、それぞれに利益が発生しその分コストがかかります。サイゼリヤは生産の段階から調理まで、工程のすべてをできる限り内製化しようとしています。内製化の努力こそがサイゼリヤの歴史だったとも言えます。