数年前のことだが、私の後輩の榎本泰子さんという人が、シナのフランス文学者フーレイが、息子であるピアニスト・フーツォンに送った手紙を編訳して『君よ弦外の音を聴け』(樹花舎、2004)として刊行した。『中国の小さな踊り子』という映画に、このフーレイが訳した、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』の一節が朗読される場面があり、シナではフーレイはこの長篇小説の名訳者として知られている。

ところがその時、某師匠は榎本さんからこの本を贈られて、「ロマン・ロランなど古臭い」と言ったそうで、実際近ごろは、ロマン・ロランの人気はあまりないらしい。昔はずいぶん『ジャン・クリストフ』などを中心に読まれたものである。