これまで音楽に関心のなかったライターの吉田潮さんは、突然、シンガーソングライターの藤井風(25)にハマった。吉田さんは「優しさと安定感のある歌声がとにかく心地よく自律神経のバランスが整う感じがする。歌詞も素晴らしく、怒りっぽくなったり、落ち込みやすくなった中年にこそ聞いてほしい」という――。
画像=株式会社スペースシャワーネットワーク
藤井風(Photo by 上山陽介)。藤井風がスペースシャワーTVの3月度マンスリーアーティスト「V.I.P.」に決定したときのプレスリリースより。

藤井風を「ホンモノの天才」だと思った瞬間

今もいるだろうか。ちょっと前までは、新宿のゴールデン街や二丁目の飲み屋街、四ツ谷の荒木町あたりで飲んでいると、ギター片手にあるいはアコーディオンを抱え、ふらりと入って来る「流し」がいた。

客のリクエストに応え、確か1000円で2~3曲歌ってくれた記憶がある。正直、若い人の新しい歌は少なかったが、演歌にムード歌謡、レパートリーは数百~数千曲と豪語していたっけ。歌うだけでなく演奏もするのだから、その才能と記憶力には感動した。ま、ちょっと押し売りっぽい営業スタイルの人もいて、「流しの入店お断り!」の店も増えていったが。

え、何の話? と思うかもしれないが、藤井風の話だ。昨年末の紅白歌合戦で、うっかり胸をときめかせてしまった。岡山の自宅から中継というテイで始まったパフォーマンスだが、実はステージに登場するという粋な演出に驚いた。いや、演出よりもその才能に感嘆した。

まるで自分の体の一部のように奏でるピアノ、優しさと安定感のある歌声。岡山弁で語る朴訥さ、スウェット&毛足の長いスリッパでステージにあがる気負わなさと新鮮味(演出が自宅のテイだったので)。

キラキラした衣装で隊列組んで、歌ってる風を装うアイドルやボーカロイドっぽい偽物に辟易していたから、風の演奏を聞いたときに「ホンモノの天才、現る!」と思ったのだ。