少女漫画家・萩尾望都さんの代表作『11人いる!』は、なぜ高く評価されているのか。評論家の長山靖生さんは「舞台は遠未来の宇宙。発表当時は『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』などが流行し、SFがブームになっていたが、発表はそれより早く、時代を先駆けていた。しかも緻密な設定で、SFマニアをうならせるほどだった」という――。

※本稿は、長山靖生『萩尾望都がいる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

SFブームに先駆けた『11人いる!』

1970年代は、少女漫画におけるSF躍進期でした。もちろん漫画全体で見れば戦前からSF的な作品はあり、戦後すぐに手塚治虫が描き、石森章太郎、藤子不二雄らもSF物を描いていました。少女漫画誌でも当時の主たる描き手だった男性漫画家が、手塚「ロビンちゃん」(1954)、石森「みどりの目」(1957)などのSF少女漫画も描いています。

1960年代に入ると女性漫画家の活躍が増え、次第に描き手が交替しますが、女性によるSF作品はまだ稀でした。それが急速に発展するのが1970年代です。

『萩尾望都スペースワンダー 11人いる! 復刻版』(小学館)
『萩尾望都スペースワンダー 11人いる! 復刻版』(小学館)

1975年の注目作は何といっても『11人いる!』です。

まず強調しておきたいのは『11人いる!』が1975年の作品だということ。つまり劇場版『宇宙戦艦ヤマト』(1977)や『未知との遭遇』(同、日本公開は翌78)や『スター・ウォーズ』(同、日本公開は翌78)より前で、SFブームに乗った作品ではなく、その先駆けだったという点です。

もっとも、『宇宙戦艦ヤマト』のテレビ版はすでにありました。『11人いる!』では背景や宇宙船メカニックのデザインは自身でしたものの、メカを手伝えるアシスタントが身近にいなかったため、以前から親しかった松本零士にアシスタント紹介を頼んでいます。

「SFそのものの持つ魅力の1点を見事に表現」

米沢嘉博『戦後SFマンガ史』(ちくま文庫)には、1974、75年の項では少女漫画作品への言及はなく、75年で取り上げたのは、やはり『11人いる!』です。

なんといってもこの年の少女SFマンガの大作は萩尾望都の「11人いる!」であろう。

宇宙大学のテストのために乗り込んだ宇宙船の中にまぎれ込んだ1人のよけい者をめぐって、密室劇が展開される。さらにさまざまな問題が発生し、11人の異星人達のメンタリティの違いや、それぞれの過去がひきずり出されてくる。洗練された萩尾望都のテクニックは、その宇宙の密室ドラマを、緊張を持続させたままラストまで一気にもっていく。これもまたSFマンガの新たな道だった。

しかも、SFのムードをたっぷりともっていたのである。宇宙大学のテスト生達がそれぞれの道に向かっていくラストのコマは、SFのイメージの広がりを結晶させ、そのドラマの裏側に広がる圧倒的な宇宙を思わせる。──それはSFそのものの持つ魅力の1点を見事に表現していた。