GAFAMのターゲットはZ世代。「考える力」が奪われる「スマホ脳」的な現象を食い止める方法はあるのか。『人新世の「資本論」』(集英社新書)の著者・斎藤幸平氏と『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)の著者・堤未果氏、ベストセラーの著者二人が、日本の近未来を展望する――。(後編/全2回)
斎藤幸平氏
撮影=増田岳二

GAFAMの主要ターゲットはZ世代

【斎藤】危機状況といえば、「資本主義の微修正でいけるのだ」と思いたい中高年世代とは違い、不況続きの私の世代くらいになると、もはや資本主義の永遠の経済成長への憧れはほとんどない。その意味では、私よりさらに一回り下のZ世代の価値観に最近は注目しています。

【堤】今までの続きでなく、根本から新しい価値観を作り出せるZ世代ですね。

【斎藤】今の若い世代は、経済的に苦しい状況にあります。日本のガラパゴス化なんていいますが、アメリカへ留学する学生の数も減っている。教員として大学生を見ていても、僕らの時代以上に「経済的に留学できない」という声はよく聞きます。さらに、そこにコロナと円安です。より海外は遠ざかり、見分を広める機会も減少しています。

【堤】斎藤さんは、ドイツ、フランス、アメリカとさまざまな土地で学ばれてきたんですよね?

【斎藤】非常に幸運でした。やはり土地が変われば、経済も人間も変わります。ベルリンなら豊かに暮らせるお金を持っていても、ニューヨークでは食べていくのがやっと。

だから、ニューヨークの投資銀行に入った大学時代の同級生は、稼ぎのことばかりを考え、同僚と競争しながら、街の速度に合わせるように必死に働いていた。一方、ベルリンは、日曜はすべてお店が閉まるくらいのんびりしている。けれど、週末はみんな公園でビールを飲んだり、仲間と議論したり、デモに参加したり。どっちが幸せかといえば、やっぱり後者じゃないかと(笑)。

堤未果氏
撮影=増田岳二

【堤】うふふ、いいですねドイツ(笑)。そうやって五感を使って体験した記憶って貴重ですよね、時間が経つほどその効力を発揮する。頭だけでなく体感で覚えたことは忘れないし、自分の中のステレオタイプを壊しやすくしてくれるんです。

斎藤さんの経験もすてきだし、たとえ今のZ世代が海外に出られなくても、国内で全く文化の違う相手とリアルで接する機会を持つことには、大きな価値があると思います。

デジタルテクノロジーの進化で、「これからは家の外に出なくてもいろいろ体験できるようになりますよ」と宣伝されていますが、私は逆にZ世代には、「身体で体験することが、後で必ず宝ものになるよ」と伝えています。

ちなみにGAFAMの主要ターゲット層は、Z世代の若者です。それは思春期の、まだ感情や自己肯定感も不安定な時期に、スマホを通して彼らの感情や思考、健康状態や食の好みや政治観まで、データを収集して、ある種の方向に誘導もできるなど、ビジネスとしての利用価値がとても高いからです。若いうちからオンラインにいる時間が長ければ長いほど、ネット依存度も高くなるので、その分回収できるデータも膨大になる。Z世代の頭の中は言ってみれば富を生み出す「巨大なマーケット」なんです。