政府や自治体はなぜ、全員一律の強い自粛要請を繰り返したのか。ウイルス学者の宮沢孝幸さんは「日本は、欧米の対策をそのまま取り入れようとしました。背景にあるのは欧米追従主義です」という――。

※本稿は、宮沢孝幸『ウイルス学者の責任』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

ウイルス学者が提唱する「目玉焼きモデル」

私は、ウイルス学の知見に基づいて正しい政策決定をしてもらうために、「目玉焼きモデル」というものをつくりました。

【図表1】目玉焼きモデル(同心円モデル)
出所=宮沢孝幸氏が作成

今回のウイルスの感染状況を見ていますと、感染しやすい場所で感染し、感染しにくい場所ではあまり感染しないことがわかってきました。感染する行為で感染しますが、感染する行為をしなければ、ほとんど感染は起こっていません。当たり前といえば、当たり前です。感染しやすい場所というのは、ライブハウスやカラオケ、一部の飲食店、職場の休憩室などです。

特に、密接な接客を伴うような店、大声を出すような店で感染が広がっていました。1人が何人にうつすかという実効再生産数は、日本全体を平均すると1.7くらいでしたが、繁華街ではもっと高いと見られていました。2~3、あるいはそれ以上になっていたかもしれません。1人の感染者が平均2~3人に感染させるということです。実際にクラスターを出したホストクラブでは、感染率は60%にも上っていました。一時点でのPCRの結果ですから、店舗内のほとんどの人が感染していたのかもしれません。そうなると、実効再生産数は恐ろしく高いことになります。

それに対して、一般の生活を送っている人たちは、感染しても多くの人にうつすことはありませんでした。ホストクラブなどの特殊な飲食店での接客のように、多数の人と密接に、同時に大声で話をするわけではないのです。何も感染対策をしていない場合では同居している家族や職場や大声を出す部活動の仲間や友人にうつしてしまうことはあるかもしれませんが、その他の多くの人にうつすことはほとんどないはずです。平均すれば、一般生活をしている人は、実効再生産数は、1以下だったのだと思います。