一日の大半の時間を過ごす職場。誰もが快適に過ごしたいと願っているにもかかわらず、トラブルやイライラが付き物なのはなぜなのか。自衛隊メンタル教官である下園壮太さんは「メンバーの3分の1が疲労状態にあると、組織の力は急激に低下する」という――。

※本稿は、下園壮太『自衛隊メンタル教官が教える イライラ・怒りをとる技術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

意見の相違がある2人の同僚
写真=iStock.com/Deagreez
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「会社が悪い」「あの上司が悪い」職場でのバトルが勃発する理由

「職場」もまた、怒りの多発地帯です。

職場とは「上下関係」で構成されていて、また仕事の負担に対して、自分の取り分、「報酬」をもらうシステムで動いています。エネルギーを大事にする原始人的感覚で、自分は負担に見合った報酬を受け取っているか(=期待)、他と比べて損をしていないか(=比較)、という警戒心が常に立ち上がっている状態です。ですから、多かれ少なかれ、職場とはそもそもイライラが誘発されやすい場なのです。

「残業をしていると、隣のチームは早く帰っていて、ラクをしているように見えてしまう。うちのチームは不遇なのでは」
「私はキリキリやっているのに、いつも、のん気にしているあいつのほうが昇進するとはどういうことか」

などと、職場では他のメンバーへの疑心暗鬼の目も生まれやすいものです。

特に、担当が明快でない「中間の仕事」は、誰も手を出したくないので、もんもんとした冷戦状態になりやすい。もし自分がやることになれば、ものすごく損をした気にもなります。これを私は「役割の戦場」と呼んでいますが、組織が大きくなるほど、誰が何をやっているのか見えづらくなって、中間の仕事の担当(役割)をめぐるバトルも多発するでしょう。

負担に対して、受け取る報酬が潤沢だったり、自分自身のエネルギーに余裕があるときは、会社でイヤなことが起こっても、家に帰ったら案外忘れられたり、同僚と愚痴を言い合ったりして、スルーしていけます。

しかし逆に、報酬が少なく、疲労が強くなっている状態では、ささいなことでも「自分がソンをさせられているのでは」とイライラして、原因究明をしたくなります。

「うちのチームばかり残業しているのは、会社の組織編成に問題があるのでは」
「あいつがラクをしているのは、上司の指導に問題があるのでは」

などという発想になっていきます。しかも、ひとたび原因らしいことに思い当たれば、「会社が悪い」「あの上司が悪い」と考え続けて、どんどん思考も狭まっていくでしょう。

職場へのイライラが止まらない時のたった一つの対処法

怒りの感情に乗っ取られて、倒すべき相手に視点と思考が集中していくからです。

もし今あなたが、会社や職場の人間関係に対する怒りが溜まり、苦しんでいるのならば、いったん原因究明は停止して、代わりに「自分自身のエネルギーをケアする」という発想を持ってみてください。具体的には現在の疲労の段階はどこに位置するのかを感ケア5の、「体調・蓄積疲労」の切り口で、自分自身のエネルギー状態を見つめ直すと良いでしょう。

しっかり休んで疲労が回復したら、他のチームの残業状況も、働かない後輩の存在もあまり気にならなくなることは、よくあることです。