「自衛隊が攻めてくるかもしれない」とロシアは真剣に恐れている
【増田】ロシア軍は兵力不足と言われながら、北方領土を含む地域で3月末から軍事演習を繰り返しています。
【池上】3月25日には3000人が参加したという発表は、この地域には3000人の兵士しか駐留していないことを意味するのかもしれません。だから「いまこそ、北方領土を取り戻すのに絶好のチャンスだ」というブラックジョークがあります。自衛隊の精鋭を1万人送り込めば、あっという間に制圧できるでしょう。
もちろん現実的ではありませんが、自衛隊は日本の国土を守る必要最小限の実力組織です。加えて北方領土は、わが国固有の領土です。わが国固有の領土を守る必要最小限の実力行使をするという理屈が、成り立たないわけではありません。もちろんそんなことはしませんが、ロシアとしてはそれを真剣に恐れているので、示威のために軍事演習を行っていると考えられます。
フィンランドだけじゃない! 立ち上がり始めた国々
【増田】5月15日、ロシアの隣国フィンランドは、NATO(北大西洋条約機構)に加盟申請を行うと正式に決めました。翌日、スウェーデンも加盟申請すると正式に表明しました。
【池上】フィンランドの戦時兵力は約28万人で、予備役も含めると90万人になります。今のロシアにはフィンランドやスウェーデンを脅すだけの兵力はなく、加盟を阻止するのは難しいでしょう。NATO拡大を阻止するためにウクライナに侵攻したのに、裏目に出てしまいました。
これを見て、ロシアの隣国ジョージアは南オセチアへ攻め込みたい誘惑に駆られているはずです。ジョージアにも、親ロ派が2008年に一方的な独立を宣言した地域があるからです。「南オセチア共和国」と「アブハジア共和国」です。国際的には承認されていませんから、ドネツク、ルハンスクの両人民共和国と同様の存在です。
南オセチアに駐留していたロシア軍が急きょウクライナ戦線へ投入されているので、取り戻す好機となります。しかし軍事的には取り戻せても、住民には親ロシアの人たちが多いので、その先は見通せません。
もうひとつ注目しているのは、ウクライナの西に位置するモルドバ共和国です。ここにもまた、ロシア系の住民が1990年に独立を宣言した「沿ドニエストル共和国」があります。やはりロシア軍が駐留していますが、活発な動きがあるという程度の情報しか入って来ませんから、ウクライナへ投入されている可能性があります。
【増田】モルドバは、ウクライナと同じく旧ソ連から独立した国で、2020年に女性のマイア・サンドゥ大統領が誕生しました。
【池上】前大統領は親ロ派でしたが、サンドゥ大統領は親欧米で、ロシアに依存する経済からの脱却を目指しています。今年3月には、EUへの加盟も申請しました。この動きは、プーチン大統領にとって認めがたいものです。できれば、モルドバへ取材に行きたいと思っているんです。