兵力不足も深刻…ロシア軍がこんなにも苦戦する3つの理由

【増田】ロシア軍がこれほど苦戦して、今後も戦争が長引いてしまう理由は、何でしょうか。

【池上】いくつか要素があります。1つ目は、アメリカが開戦前に機密情報を公開したのが役立ったこと。ロシア軍の侵攻を警告したのに対して、プーチン大統領は軍事演習だと反論しました。そう語ってしまった以上、緻密な侵攻計画を現場に徹底させることができなくなりました。ウクライナで捕虜になった若いロシア兵が、「ベラルーシで軍事演習をすると言われたら、ウクライナへ連れて来られた」とぼやいていたのは、そのせいです。

2つ目は、プーチン大統領の見通しの甘さです。戦前の情勢分析では、ウクライナへ攻め込めば、電撃作戦でキーウを占領でき、ゼレンスキー大統領はあっという間に降伏するだろうと考えていたんです。そのため補給がおろそかになり、食料も水も燃料も数日で切れてしまいました。

特に、キーウの北部にあるホストメリ空港を空挺くうてい部隊で制圧して、そのままキーウを襲撃する予定だったのが、ヘリコプターから降り立った空挺部隊はその日のうちにウクライナの守備隊に撃破されてしまいました。

プーチン大統領は4月上旬になって、アレクサンドル・ドボルニコフ南部軍管区司令官(60)を、ウクライナの全戦域を統括する司令官に任命しました。シリア内戦で作戦指揮を執ったこの人は、空爆によって多くの民間人に犠牲を出したと言われます。

2月24日の侵攻開始からこの時点まで、全体を指揮する総司令官を置かなかったのも、それぞれの部隊に勝手にやらせておけば数日で終わると見込んでいたことの表れです。しかし総司令官が不在では、各部隊間の調整は取れません。

プーチン大統領としては、北京オリンピック開会中に侵攻を始めれば習近平主席の顔に泥を塗るので、閉幕の2月20日を待ち、パラリンピックが開幕する3月4日までに終える心づもりでいたんでしょう。2月末ならウクライナはまだ路面が凍結していますから、戦車や装甲車を動かしやすい。ところが3月に入ると氷が溶けて地面がぬかるみ、進軍の妨げになります。短期決戦のもくろみは、すべて裏目に出たんです。

モスクワ地下鉄の駅
写真=iStock.com/Elena Odareeva
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3つ目に、兵力不足が挙げられます。ロシア陸軍の実働部隊は25万人しかいませんが、19万人をウクライナへ投入しています。4月下旬にイギリス国防省が発表したように1万5000人が戦死したとすれば、負傷者は3倍いるはずです。戦力としては、4万人から6万人をすでに失っているわけです。いまモスクワの地下鉄には、兵士を募集する広告が出ているそうです。経験や専門知識がなくてもできる軍務なら、砲弾を運んだりする後方支援でしょう。

対するウクライナ軍は、実働20万人。予備役を含めれば90万人です。2014年にクリミア半島を一方的に併合された当時、ウクライナ軍は5万人しかいませんでした。その現実に危機感を抱き、NATOの指導を受けながら増強に努めてきたんです。