ロシアの隣国であるフィンランドとスウェーデンは、ロシアを刺激しないためにNATO加盟を見送ってきた。ところが、ロシアのウクライナ侵攻によって、NATO加盟を目指すことになった。フィンランドでの「空気の変化」とはどんなものだったのか。現地の取材を重ねてきたジャーナリストの増田ユリヤさんに池上彰さんが聞く――。(連載第3回)
2022年5月31日、ブリュッセルにて、ウクライナ・防衛・エネルギーについて話し合うEU首脳臨時会議の開始を待つフィンランドのサンナ・マリン首相。
写真=AFP/時事通信フォト
2022年5月31日、ブリュッセルにて、ウクライナ・防衛・エネルギーについて話し合うEU首脳臨時会議の開始を待つフィンランドのサンナ・マリン首相。

「攻撃されたら国防に参加する」が82%

【増田】北欧のフィンランドとスウェーデンが申請していた北大西洋条約機構(NATO)への加盟が、認められる見通しになりました。難色を示していたトルコとの話し合いが、決着したためです。

私はこれまで20回以上、教育現場の取材でフィンランドへ行っています。初めて行った2005年、ヘルシンキ中央駅の前にある地下駐車場で、「ここは核シェルターになるんですよ」と説明されました。ムーミンや木製のデザイナーズ家具や「森と湖の国」のイメージには似つかわしくないので、びっくりしたことをよく覚えています。

教育現場の取材に回ると、核シェルターはどの学校にも作られていました。中は見せてもらえませんでしたけど、ドアを開けると地下へ下りる階段があるそうです。しかも普通の防空壕ではなく、核戦争に備えたシェルターですからね。地下鉄の駅をそのまま転用するなど、首都ヘルシンキ市内には5500カ所。国内だと5万4000カ所あって、全人口約551万人の8割を収容できるそうです。

NATOへの加盟は、選挙のたびにトピックとして挙がるのですが、大きな争点にはならず、現状維持という選択が続いてきたんです。それは、1300キロメートルも国境を接する大国ロシアを刺激しないように、という配慮のためでした。

国内の雰囲気を一変させたのが、ロシアのウクライナ侵攻です。公共放送「フィンランド放送協会」が行っている世論調査の結果を見ると、前回調査した2017年ではNATOへの加盟支持は21%でしたが、侵攻が始まった2月下旬に53%、3月は62%に上昇。5月には76%に達したんです。

フィンランド国防省が5月18日に行った世論調査では、「フィンランドが攻撃された場合、国防に参加する意思があるか」という問いに対して、回答者の82%が「ある」と答えています。以前から一般市民向けに行われていた軍事訓練には、参加希望者が急増しているそうです。