「メディアのドン」はなぜ生まれるのか

メディアには昔から「ワンマン」「ドン」「独裁者」と呼ばれた経営者が多くいた。

今、中居正広と関連会社の女性との「性的トラブル」問題で激震している、フジテレビの日枝久フジサンケイグループ代表(87)もその一人である。

フジテレビの日枝久会長
写真=共同通信社
フジテレビの日枝久会長

メディアにそうした人間が輩出しやすい理由はいくつか考えられる。

この業界は変化が激しく、常に新しい情報やコンテンツを生み出す必要があるため、強力なリーダーシップを持つ経営者がいて、迅速な意思決定や大胆な改革を行うことが求められることがその一つだろう。

メディア特有の条件もある。これまでの多くのワンマンメディア経営者は報道、それも政治部出身が多かった。「ウォッチドッグ」ではなく、時の権力者と良好な関係を築き、それを“誇示”することで、自らの虚像を膨らませ、君臨してきたのである。

日枝氏も安倍晋三元首相と親しかったといわれる。「安倍晋三元首相が銃撃され、遺体が自宅に運ばれた際、いち早く駆けつけたのが日枝氏でした。二人はお互いに河口湖畔に別荘を持つゴルフ仲間で、生前は富士桜カントリー倶楽部を一緒に回ることも多かった」(永田町関係者)と、『週刊文春』(2月6日号)が報じている。賛否喧しかった安倍氏の“国葬”の司会をしたのもフジのアナウンサーだった。

日枝氏の独裁ぶりはまだ可愛いもの

また、『週刊新潮』(同)によれば、森喜朗元首相の孫娘や岸信夫元防衛相の息子(現在は衆院議員)、故・中川昭一元財務相の長女、加藤勝信財務相の娘もフジに入社しているという。

さらに日枝氏は、人事権を一手に掌握し、自分を脅かす存在になる人間を切り捨て、イエスマンばかりを取り立て、長きにわたって君臨してきた。

週刊誌には「日枝久の大罪」などのタイトルが特筆大書されているが、長いあいだ、メディアを見てきた私からいわせれば、日枝氏などはまだ可愛い独裁者である。

戦後のメディア史には、彼をはるかに超える独裁者が何人もいた。中でも特に多いのは読売新聞である。

もはや覚えておいででない方も多いことだろうが、戦前、弱小新聞だった読売新聞を買ったのは、元警視庁警務部長だった正力松太郎氏だった。第7代社長になった正力氏は、斬新な企画を次々に打ち出し、当時の大新聞、朝日と毎日に対抗する新聞に育て上げた。

当時、新聞の一面には書籍などの広告を掲載するのが普通だった。それを現在のように重要なニュースを一面に載せるようにしたのは正力氏だったといわれる。