※本稿は、梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)より一部を抜粋、加筆・編集したものです。
中国・中西部に乱立する「誰も欲しがらない住宅」
前回の記事では不便な陸の孤島にある高層マンションが不動産バブルと経済対策でどう翻弄されているかを描いた。取りあげた高銀金融117は天津市という大都市に立地しているが、実は中国の中西部には誰も欲しがらない住宅が乱立している。
俗に「新城」(ニュータウン)と呼ばれるが、開発コストの安い僻地に巨大団地が作られるブームが2010年代半ばから続いたためだ。とてつもなく不便な場所にあるが、ほとんどの購入者はついの住処にするつもりはなく、しばらく寝かしておいて後は転売すればいいぐらいに考えているので気にならないのだとか。
「新城」は僻地にあるために外国人が中国に出張、旅行してもほとんど見かけることはない。それどころか、中国人であっても実際に見た人は少数だろう。中国各地に無数に作られているのにあまり知られていない「新城」、それを確かめるため貴州省貴陽市へと向かった。
大都市より深刻な地方の不景気
到着すると、垢抜けない土臭さが漂ってきた。といっても、開発が進んでいないというわけではない。ビルも道路も立派だが、やる気のなさそうな働き手、道端に広がる露店など、田舎臭さが一目瞭然だった。
公園には上半身裸で青空賭け麻雀を楽しむ中年男性の姿が見られた。シャツをまくり上げてお腹を出す、いわゆる「北京ビキニ」のおじさんもいっぱいだ。
大都市では、街の文化的イメージを損ねるとして取り締まり対象となったこともあり、かなり数は減ったのだが、貴陽市ではまだまだ健在である。
変わらぬ土臭さに加えて感じられたのが景気の悪さだ。北京市や上海市と比べると、繁華街でもシャッターを下ろしている店が多く、明らかに空気感が違う。
「景気は悪いです。不動産価格も下がっています。私も2021年にマンションを購入したばかりですが、もう1割以上は下がりました」


