新型コロナウイルスは感染の「第7波」が到来し、発熱外来の受診がしづらいなど、各地で影響が出ている。問題の本質はどこにあるのか。ジャーナリストの池上彰氏さんと増田ユリヤさんが話し合った――。(連載第6回)
記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2022年7月28日午後、東京・永田町
写真=時事通信フォト
記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2022年7月28日午後、東京・永田町

マスクを着けたり外したり…岸田首相の“マスクルール”

【池上】岸田首相が6月26日から28日にかけて、ドイツのエルマウで行われたG7サミットとNATO首脳会合に出席しました。気になったのは、会合の内容もさることながら、岸田首相が当地ではほとんどの場面でマスクを外していたにもかかわらず、日本に帰ってきてからはばっちりマスクをしていたことです。

岸田首相は4月下旬から5月上旬にかけてのゴールデンウィークの時期にも海外を歴訪していますが、その時にも多くの場面でマスクを外していました。そこで帰国後、記者から「海外ではマスクを外していたにもかかわらず、帰国してからはマスクを着用しているというのはどういうことか」と質問されたんです。

【増田】岸田首相の答えが注目されましたよね。

【池上】「出張先、相手国のルールに沿って対応させていただいた」と述べていました。その直後の5月12日の参院厚生労働委員会で「マスク着用基準の緩和を検討しないのか」と聞かれて「今は現実的ではない」と時期尚早であるとの考えを示しています。さらに5月31日にも、参院予算委員会で「まだこの段階で外すのは現実的ではない」と答えています。

海外では誰もマスクをしていない

【増田】私は今年3月、6月末と海外取材に出ましたが、ハンガリーやスロバキアでは、確かに誰もマスクはしていませんでした。移動中はもちろんですが、取材で会話をする際も誰もマスクを着用していないので、私も外していましたけれど。

【池上】国際ニュースを見ても誰もマスクをしていません。欧米の人は特に、マスクが嫌いですよね。「感染するぞ、命の危険があるぞ、マスクをつけろ」と言ってもつけたがらない。だから政府は仕方なくマスク着用を義務化してまで着けさせていた。それでも「俺はマスクをしない」と言い張る人たちがいて、それが一つの政治的アイデンティティーを示す行動にまでなってしまった面があります。

一方、日本人が義務化もされていないのにほとんどの人がマスクを着用したのは、ひとえに「世間の目」、つまり同調圧力です。「みんながマスクをしている中で、自分だけしていなかったら奇異な目で見られてしまう」「みんなが着けているうちは、着けておいた方が無難だ」と。「もうそろそろ外してもいいのでは」となってきた中でも、人が多いところではほとんどの人がマスクを着用しています。

【増田】朝のランニングの場面などでは、外している人も多くなってきました。6月末から急激に気温が上がりましたから、マスクしたままでは熱中症になる危険性も高まります。

【池上】政府が「もう外してもいい」と言っても、多くの人が外さない限りみんな着用し続けるでしょうが、岸田首相が「まだその時期ではない」と言っているので、輪をかけて外さない。そうこうしている間に、若い女性などを中心に「むしろマスクを外したくない」という人たちも出てきています。コロナ第7波が到来し、またマスクを外す機運が遠のいたのではないでしょうか。