「かかりつけ医」は医療費削減のために必要

【池上】医療において、今回を機に見直した方がいいことはほかにもあります。例えば「かかりつけ医」の問題。かかりつけ医とは、体の不調や不安を覚えたときに、まず相談しに行ける身近な病院や医者を持っておくことを指します。日本では少々の体調不良でもいきなり大学病院や総合病院に行ってしまいがちですが、欧米ではまずはかかりつけ医にかからなければならない。これは医療費を減らすためにも必要なことです。

【増田】ヨーロッパは徹底していますよね。かかりつけ医、いわゆる「ホームドクター」を通さなければ、医療サービスを受けることができない。

【池上】以前、デンマークに取材に行きましたが、かかりつけ医がどの家庭にも必ずいて、紹介状を書いてもらって初めて大学病院や総合病院など大きな病院に行くことができる。

診察の様子も見せてもらいましたが、「前日、庭仕事をしたら体が痛くなって……」という患者さんを医者が見て「あぁ、これは筋肉痛ですね。家に帰って寝ていれば治ります」とか、「ちょっと熱っぽいんですが……」という患者さんの場合は診察したらインフルエンザだったのですが、それでも薬も出さず「家に帰って寝ててください」と。

「インフルエンザだったので休みます」と会社に言えば薬を飲んで無理に出社しなくてもいいという社会だからこれで成り立っている面もありますが、薬をむやみに出さないことで、医療費削減を実現しているんです。

日本もこれを見習って、いきなり大学病院に行くと「紹介状がない場合、初診料5000円が発生する」と定めることで、なるべくかかりつけ医にかかることを進めてはいるのですが、なかなか定着しないまま、今に至ります。ましてや薬を出さないなんてことはなくて、患者の方も「薬はないんですか」と聞くぐらい。薬が出ないと安心できないという心理状況があるんですね。

複数種の薬
写真=iStock.com/Natalia Ghasrghandi
※写真はイメージです

【増田】それは池上さんの世代だけかもしれませんよ(笑)。

かかりつけ医と思っていた病院から診察拒否されるケースも

【池上】若い世代は変わりつつあるかもしれませんね。

ただ、若い世代は普段、病院に行く機会が少ないから、かかりつけ医を持っていない人も多いでしょう。また、コロナ禍では、かかりつけ医だと思っていた病院にワクチン接種を断られてしまった人もいた、と聞きます。あまり体調を崩さない、病気にならない人は、一度行った病院に2年、3年と行かないケースもあるでしょう。すると患者の側としては「あの病院には行ったことがある」と思っていても、病院側ではすでにカルテや患者情報がたどれなくなっている、ということも起こり得ます。

私の場合は逆に、子供の頃からかかりつけ医だったお医者さんが亡くなってしまったので、かかりつけ医がなくなってしまいました。そのため、コロナのワクチン接種のために、大手町の大規模接種会場へ行きましたよ。