今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、これまで600万人以上が難民として国外に脱出している。これは第2次世界大戦以降で最悪のペースだという。ウクライナの難民問題はこれからどうなるのか。ハンガリーでウクライナ難民に直接取材した増田ユリヤさんに、池上彰さんが聞く――。(連載第1回)
ブダペスト郊外の駅に到着したウクライナ難民たち。このあと、バスで市内の一時収容施設や知人宅などに移動する。
撮影=増田ユリヤ
ブダペスト郊外の駅に到着したウクライナ難民たち。このあと、バスで市内の一時収容施設や知人宅などに移動する。

お金も取らずに、自宅に泊めてあげる人も

【増田】3月下旬からハンガリーへ取材に行って、ウクライナから避難してきた人たちに会ってお話を聞きました。私が取材に行った時点で、ハンガリーはおよそ39万人のウクライナ人を受け入れていました。現在は57万人を超えています。

私が取材に行ったときは、国境に2カ所のゲートがあって、マイクロバスや大型のワゴン車が一度に10人から15人を乗せて往復していました。減ってきたとはいえ、1日200人ほどが入国するそうです。

ポーランドへ逃れるウクライナ人には定住を考える人たちが一定数いますが、ハンガリーに来る人たちの多くにとって、ここは通過点です。ドイツやイタリアを目指す人もいれば、中にはクロアチアに行くつもりだと言っていた家族もいました。ポーランドに入国を希望する人たちが殺到して手続きに時間がかかると聞き、比較的入りやすいハンガリーを目指してきたと言う人もいました。

といっても、ウクライナ難民の支援は、ハンガリー政府が積極的に行っているわけではなく、基本的に民間の人道的な活動です。ウクライナから列車で避難してくる人たちの終着駅は、最初は首都の中心地にあるブダペスト西駅でした。ところが、理由はさだかではありませんが、政府が突然、郊外の駅に終点を変えてしまったので、そこからバスで中心地に移動することになりました。

ブダペストの市民の中には、隣国ウクライナ出身の人たちもいて、見ず知らずのウクライナ人でも、行き先が決まるまでの間、お金も取らずに、自分の家に泊めてあげている人もいました。母国の危機にいてもたってもいられない、できることなら何でもお手伝いしたい、と言っていましたね。

ツインベッドにシャワールームとトイレ、温かい食事にお茶

【増田】ドナウ川の近くには、企業の保養所がたくさんあって、難民の一時収容施設にと貸し出してくれていました。ツインベッドにシャワールームやトイレも備えたホテルのようなつくりで、清潔感もあり、ゆっくり休める環境です。

滞在中は、運営に当たっているNGOのスタッフが、それぞれの人たちの相談に乗ってくれたり、移動する車の手配をしてくれたりしてくれます。食堂では、温かい食事もふるまわれますし、好きな時間にお茶を飲むこともできます。多くの難民は、1~2日間程度ここに滞在して、疲れ切った身体を休め、また次の目的地を目指して移動していくそうです。

難民の人たちに、むやみにカメラは向けないつもりだったのですが、中には顔を出してインタビューに答えたいという人もいました。国境近くの救護施設で出会った女性は、小さな男の子を連れてキーウの近くから来たと言っていました。「これはテレビゲームではない。現実に私たちがこれほど大変な思いをしていることを、世界中にわかってほしい」というお話でした。彼女は、小さい子どもと自分しか逃げて来られなかったんです。「健康に問題はないけれども、国外に親戚がいるわけではないし、行き先の当てが全然ない。これからどうしていいかわからない」と途方に暮れていました。

クロアチアを目指していると話してくれた家族は、障がいのある小学生の男の子を連れていました。クロアチアには、障がいのある子を受け入れてくれる施設があるという情報をネットで見たので、知人も誰もいないけれど、クロアチアを目指して行くということでした。