ハンガリー語が話せるルーマニア人…複雑に入り組む民族

【増田】今回の取材でお世話になったのは、トランシルヴァニア出身の男性カメラマンです。ドラキュラの故郷として有名なルーマニア北西部にある地方ですが、現在のルーマニアの一部はハンガリー領だった時代があるので、ハンガリー語のできる人たちがいるんですよね。彼とその家族は、ハンガリー語を話せたので、チャウシェスク政権(1965〜1989年までルーマニア共産党政権のトップに君臨した独裁者)を嫌って、家族でブダペストに移り住んだと言っていました。

ヨーロッパではさまざまな民族が複雑に入り組んで暮らしていて、今回の戦争もロシア対ウクライナという単純な構図ではないことがわかります。ロシアが侵攻したドンバス地方は石炭や鉄鋼石の産地で、働くためにロシアから移住してきた人たちがたくさんいます。彼らの多くは、ウクライナに対する郷愁も、ロシアに対する郷愁もないといいます。

勢力図の変化や歴史的な経緯で国境が変わるという現実は、島国の日本に住む私たちには理解しがたいものです。しかし、それに対して抵抗感をもつ人がいることは推察しなければいけません。今回の取材では、近現代史の教科書で勉強してきた事実が、現実として一つひとつ理解できる感触がありました。

(構成=石井謙一郎)
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