ロシアのウクライナ侵攻で狂った欧州の脱炭素戦略
ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻を受けて、欧州連合(EU)が掲げる脱炭素化戦略につき、大幅な見直しを余儀なくされる可能性が出てきた。
EUは、温室効果ガスの排出の実質ゼロ化を目指し、これまで矢継ぎ早に様々な戦略を打ち出してきた。特に発電から石炭火力を排する上では、天然ガスと原子力の活用が前提とされてきたからだ。
まず天然ガスの利用に関して黄色信号が灯っている。EU統計局によると、2020年時点でEUの天然ガスの輸入量のうち36%がロシア産であることが分かる(図表1)。
旧ソ連時代からロシアとヨーロッパの間にはパイプラインが敷かれており、ロシア産の天然ガスが輸出されていた。その重要な経由地の一つがウクライナである。
ロシアとドイツをダイレクトに結ぶノルドストリーム2の計画が物語るように、EUの経済面でのけん引役であるドイツの脱炭素化計画は、ロシアからの天然ガスの輸入増を前提に組み立てられていた。
ゆえにドイツのショルツ首相は、対露強硬派であるベーアボック外相を制してまで、最後までロシアに対する制裁に関して慎重な姿勢を堅持してきた。
しかしながら事態の深刻さに鑑み、ドイツも対ロシア制裁に賛同することになった。ノルドストリーム2に関しても、プロジェクトそのものを稼働させない方向性で話を進めているようだ。
ドイツだけではなくEU全体がロシア産天然ガスの輸入を戦略的に減らす方向で一致しており、液化天然ガス(LNG)の調達に舵を切っている。