ロシア産の天然ガスが欧州の脱炭素戦略の前提だったが…
ロシア産天然ガスの輸入量の減少やLNG調達への切り替えに伴うコスト高が見込まれること、さらには原油そのものの価格が急騰していることなどが材料視され、ヨーロッパの天然ガス価格が急騰している(図表2)。
ヨーロッパでは天然ガスの価格が主に市況が反映され易いスポット契約で決まるため、天然ガスの価格の急騰にもつながっている。
他方で、ヨーロッパ市場で急落しているのが排出権の取引価格(図表3)だ。
排出権価格の下落は、何よりも脱炭素化が当初の想定よりも進まないだろうという見方が取引関係者の間で高まっていることに起因するのだろう。排出権価格が、実需以上に投機的な思惑からオーバーバリューされていたことの証左とも言えそうだ。
いずれにせよ、既に市場はEUが掲げた脱炭素化戦略が見逃しを余儀なくされるという展開を織り込んでいるようだ。
一方でEU、特にその執行部局である欧州委員会はまだ脱炭素化戦略についての見直しに関して、公式には言及していない。とはいえ、早晩、脱炭素化に向けた戦略について、欧州委員会はその在り方を修正することになるだろう。
EUは2021年6月に制定した「欧州気候法」で、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年対比55%以上削減するという目標を法制化した。脱炭素化そのものを撤回することはまずないだろうが、こうした数値目標をより下方に修正するという展開は、今後十分に予想される。