企業経営の目的とはなにか。京セラ名誉会長の稲盛和夫さんは「利益を追うことは重要だ。利益を私物化してはいけないが、利益を出さなければ従業員にも還元できない。利益追求は決して汚いことではない」という――。(第3回)

※本稿は、稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

稲盛和夫氏
写真提供=稲盛ライブラリー

「額に汗しないで得られるような利益」は追わない

私は若い頃から、経営にも人生にもフィロソフィが、つまり哲学が要ると思っていました。自分の持つ哲学によって、人生も会社の将来も決まると思っていたので、中国の古典や立派な哲学者、また聖賢の教えを学び、それを自分の哲学にしよう、同時にそれを実行しようと思ってやってきました。

西郷南洲がいう人間としての正しい道、つまり正道、天道を実行し、人生を歩いていこうとしてきました。ですから、あの一九八〇年代後半のバブルのときも銀行さんのお話には乗りませんでした。

当時、京セラは高い利益を出していました。多額の預金も持っていたので、ある銀行の支店長さんが訪ねて来られたことがあります。

「社長もよくご存じの通り、昨今は株価や不動産の値段が上がっています。皆さん自分の手持ちのお金ではもちろんのこと、足りない分は銀行から借りて株式や不動産を買っておられます。そして、倍になった、三倍になったと、たいへん儲かっておられます。京セラさんは毎月、利益が上がった分を預金してくださっていますので、銀行にとってこれほどよいお客様はありません。しかし、たいへん僭越ですけれども、あえて儲かることを見過ごしていらっしゃるように思うのです。京セラさんほどの立派な会社でしたら、いくらでもお貸しします。ぜひ不動産や株式を買われたらどうですか」

私には、額に汗しないで得られるような利益、つまり浮利を追ってはならないという哲学があったので、支店長さんにそう言われても手を出しませんでした。

当時、日本の企業経営者の中で、しかも経営に余裕がある経営者の中で、不動産や株式に手を出さなかった経営者は本当に少なかったのではないでしょうか。手を出してしまったために、バブルが崩壊したあと、皆さん非常に困られたわけですが、私の会社はまったくその被害を受けずにすんでいます。