松下幸之助の「赤字は罪悪」という言葉に救われる

この利益について悩んでいるときに、松下幸之助さんが言われた「天下の資材を使い、天下の人材を使って事業を営み、赤字を出すというのは、罪悪を犯しているようなものだ」という言葉を聞いて、「ああ、これで救われたな」と思ったものです。

稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)
稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)

また、ずっと遡って、江戸時代に活躍した石田梅岩という人のことを知りました。梅岩は京都の呉服屋での奉公から始めて、のちに番頭になり、四十歳を過ぎてから教育者の道に進んで解脱をした。そして京都の街なかに塾をつくり、石門心学と呼ばれる商人道を説きました。

当時は封建制の世の中です。士農工商という身分制から、侍がいちばん偉くて、いちばん下にある商人というのは、だいたい人をたぶらかして金儲けをする。根性が曲がっている。安く仕入れてきて、それに利を乗せて高く売りつけるのが商人だ。けしからんと言われていた時代です。

そのときに石田梅岩は「何を言うか。めずらしいもの、貴重なものを安く仕入れて、適正な利を乗せて広く売るのは立派な社会行為だ。適正な利を得るということは、武士が禄をもらって生活しているのと同じだ。決して卑しいことではなく、卑屈になる必要もない」と説いたのです。

いかがわしい商売、例えば人を騙したり、とんでもないものを仕入れてきて高く吹っかけて儲けたりするのはけしからんけれども、「適正な利潤を取るのは、正当な働きの報酬だ」ということを言った。

それを聞いて、当時、非常に卑屈になっていた商人たちは、商いの道に自信を持つようになっていきました。商人が儲けると、「けしからん」と守銭奴のように言われ、人を騙して金を儲けたと思われる世相のなかで、石田梅岩が現れて、利益を得ることは立派な社会行為だと説いたので、商人は勢いづいて「なるほどそうか。それなら俺も正々堂々と立派な商人として立っていこう」と思うようになっていったのです。

【関連記事】
【第1回】「成果主義ではみんなやる気を失ってしまう」稲盛和夫がそう考えるようになった納得の理由
【第2回】「どんな凡人でも実行できる」稲盛和夫が考える"必ず成功する"判断の方程式
限界を感じたことは一度もない…大谷翔平が高校時代から続けている「やる気を出す方法」
電話オペレーターの神ワザ…「できないものはできない」を肯定表現に変える"あるひと言"
ブッダの言葉に学ぶ「横柄でえらそうな人」を一瞬で黙らせる"ある質問"