世界が脱炭素にすすむなか、産油国「サウジアラビア」に変化が起きている。ジャーナリストの池上彰さんは「ポスト・オイルを見据えたムハンマド皇太子による大胆な改革が進行中だ。私自身、現地を訪れてその変容ぶりに驚いた」という――。

※本稿は、池上彰『そうだったのか!中東』(ホーム社)の一部を抜粋・再編集したものです。

急激な変貌に驚き

2023年10月、サウジアラビアに久しぶりに取材に訪れました。

この国には過去2回入っているので、今回の取材では、あまりの変容ぶりに驚きました。

ヒジャブをかぶらないで髪を見せている女性や、自動車を運転する女性の姿を見たからです。巨大なショッピングセンターの中には遊園地もあり、ハリウッド映画が上映されているではありませんか。

「こんなことを書いても、それがどうした」と言われるかもしれませんが、極めて厳格なイスラム国家だったサウジアラビアでは、これまで考えられなかったからです。

キングダムタワー
写真=iStock.com/Hris
※写真はイメージです

さらに現在、日本の人気アニメ『ドラゴンボール』のテーマパークを建設する構想も進んでいます。

完成時期は未定ですが、発表によると、主人公の孫悟空が武術修行の上で挑戦する天下一武道会の会場や7つの球を集めれば願いを叶えてくれる高さ70メートルの神龍など鳥山明ワールド全開になる見込みです。

日本にはなくてもサウジアラビアに行けば『ドラゴンボール』の世界観に浸れる。そんな時代が来そうです。

この変貌ぶりは、ポスト・オイルを見据えたムハンマド皇太子による大胆な改革が進行中だからなのです。

未来都市「NEOM」を建設中

サウジアラビア北西部に、「NEOM(ネオム)」という、ムハンマド皇太子主導の国家プロジェクトとして未来都市が建設中です。ネオムとは古代ギリシャ語で「新しい」を意味する「NEO」に、アラビア語で「未来」を意味する単語の1文字目に対応するラテン文字のMを合わせたもので、「新しい未来都市を建設する」という意味なのです。

この未来都市は、砂漠の中に長さ170キロという、とてつもない長さの線状都市として建設されます。その名も「THE LINE」です。高さは500メートルで幅200メートルの直線の建築物の中に900万人が暮らす予定です。幅が200メートルしかないと、狭隘感を覚えるかもしれませんが、両側の壁の内側は鏡張りになるので、狭さを感じさせない作りになるはずです。

「THE LINE」のイメージ動画。NEOM公式チャンネルより

計画では、警備、物流、配送、介護などはロボットが担当し、電力は風力と太陽光のみでまかなう予定で、まさに再生可能エネルギーだけを使うのです。総工費は当初の予定で5000億ドル。日本円で73兆5000億円というスケールです。工事は2019年に始まり、2025年に完成予定でしたが、建設コストの高騰もあり、工事は遅れています。

書影
池上彰『そうだったのか!中東』(ホーム社)

2024年4月『ウォール・ストリート・ジャーナル』は内部報告書を引用し、当初5000億ドルと予想していた事業規模が2080年の最終完成までに、8兆8000億ドルに達するだろうと伝えています。さらに事業規模も縮小しています。当初は2030年までに150万人居住が目標でしたが、それを30万人にまで減らし、距離も170キロのうち、まずは2.4キロ完工に目標を下げました。

建設予定地にはベドウィンの居住地があり、建設反対運動も起きたのですが、反対運動をした住民たちは治安部隊によって射殺されたり、逮捕されて死刑判決を受けたりしています。うむを言わせないプロジェクトなのです。