弱冠31歳という若さでサウジアラビアの皇太子に就任したムハンマド・ビン・サルマン氏。「女性の運転」「日本アニメのフィギュア店」を解禁するなど、厳格なイスラム教国家のタブーを破り続ける「改革者」だ。若き皇太子が実権を握った背景には王族11人を含む大規模な「汚職摘発」があったという。その衝撃の内幕を、ジャーナリストの池上彰さんが上梓した『そうだったのか! 中東』より一部抜粋してお届けする――。

※本稿は、池上彰『そうだったのか!中東』(ホーム社)の一部を抜粋・再編集したものです。

サウジアラビア皇太子とは

皇太子の名前はムハンマド・ビン・サルマン・ビン・アブドゥルアジーズ・アール・サウード。

「サウード家のアブドゥルアジーズの息子のサルマンの息子のムハンマド」という意味です。名前の英語表記の頭文字を取ってMBSとも呼ばれます。サルマン国王の息子で皇太子であると共に、実際にサウジアラビアの政治を動かす首相でもあります。

ムハンマド皇太子
ムハンマド皇太子(写真=وكالة الأنباء السعودية/Saudi Press Agency/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

サウジアラビアといえば、石油の埋蔵量が長らく世界1位でした。現在はベネズエラに次いで2位になりましたが、いまも大量の石油を輸出しています。

サウジアラビアとは「サウード家のアラビア」という意味。国家全体がサウード家のものなのです。サウード家がすべての権力を掌握する絶対王政です。国王は高齢で実際の執務はできなくなっているため、皇太子が実質的な独裁者です。

サウジアラビアの国王には「2つの聖地の守護者」という敬称があります。イスラム教の聖地は3つあります。神殿があるメッカと預言者ムハンマドの墓があるメディナ、そして岩のドームがあるエルサレムです。エルサレムはユダヤ教の聖地でもあり、現在はイスラエルが統治していますが、これ以外の2つの聖地を守っているのですから、イスラム教徒の間での権威は高くなります。

しかも1938年に大規模な油田が発見されたことで、経済的にも強大な力を持つようになりました。

「汚職摘発」で権力基盤築く

いまのサウジアラビアを建国したアブドゥルアジーズ国王を第一世代とすると、その後の国王は、いずれもアブドゥルアジーズの息子たち、つまり第二世代でした。ムハンマド皇太子が国王になれば、第三世代の誕生です。

ムハンマド皇太子は、就任時31歳、2024年10月の時点で39歳です。高齢の国王や皇太子が続いていただけに画期的な若返りでした。この皇太子が絶大な権力を掌握したのは、「汚職摘発」でした。

汚職が蔓延する国で権力基盤を確立するためには、ライバルとなる有力者を汚職の容疑で逮捕していくことです。こうすれば、汚職にウンザリしている国民の支持が得られますし、ライバルを潰すことができます。まさに一石二鳥です。中国の習近平国家主席が権力基盤を確立した手法を、ムハンマド皇太子も採用しました。

2017年11月、サウジアラビアの王族11人を含む政府高官が多数汚職容疑で逮捕されたと報じられました。大粛清です。