ロシア軍幹部は新しい軍事目標として、ウクライナ東部に加え、南部も制圧すると表明した。4月12日の記事でこの事態を予測していた元外交官で作家の佐藤優さんは、ロシアの最終目標を「ウクライナに親ロシア的な新政権を立て、非軍事化させて、時間をかけながら小国家に分割し、少しずつ併合していく狙い」だという。
2022年4月20日、ロシア・クレムリンのエカテリーナ・ホールで会議を開くウラジーミル・プーチン大統領。
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2022年4月20日、ロシア・クレムリンのエカテリーナ・ホールで会議を開くウラジーミル・プーチン大統領。

やはりプーチンの狙いは黒海沿岸だった

4月22日、ロシア軍幹部は新しい軍事目標を表明しました。ウクライナ侵攻作戦の目標は東部(ドネツク州、ルガンスク州)に加え、南部を制圧するとし、クリミア半島やロシア系住民が独立を主張するモルドバ領とも地続きの支配域を確保すると明言しました。

私は4月12日公開のプレジデントオンラインの記事で、下記のように予測しましたが、やはりプーチン大統領はウクライナの国家体制を解体するという戦略目標を諦めていなかったのです。

「ロシアはウクライナの国土を分割し、朝鮮半島のような状態にすることを狙っています。そのために重要なのが、黒海沿岸です。激戦になっている南東部のマリウポリを陥落させ、クリミア半島の西のオデーサ(オデッサ)も手に入れれば、その西隣はロシアが実効支配している“沿ドニエストル共和国”。国際的には承認されていない、モルドバ国内の一地域です。

すると黒海沿岸は、自国の領土からドンバス地域、マリウポリ、クリミア半島、オデーサを経て、ロシアが地続きで支配できるようになります。首都のキーウを占領するよりも、ウクライナを海上から封鎖してしまうほうが、戦略的な意義は大きいのです。対外貿易がさらに閉ざされれば、ウクライナは完全に日干しになります。」(4月12日・プレジデントオンライン)

核兵器、生物化学兵器を使うことはまずない

オデーサの人口は100万人ほどで、首都キーウ(キエフ)、東部のハルキウ(ハリコフ)に続く第3の都市です。オデーサは国内有数の工業都市ですが、ウクライナ最大の港があり、穀物大手のターミナルが集積し、小麦やトウモロコシなどを輸出する港湾都市でもあります。

このオデーサとともに黒海沿岸を制圧すれば、ウクライナに大きな経済的打撃を与えることになります。ひとことで言うとウクライナは海を失い、内陸国になります。これまで主戦場とはなっていなかったオデーサですが、東部の戦闘とともに今後ロシア軍からの攻撃が強まるでしょう。

地上戦でのロシアの苦戦が伝えられていますが、ロシアはすでにウクライナの5分の1を占領していますし、戦闘で追い込まれているわけでもなく、生物化学兵器や核兵器を使うことはまずないでしょう。その意味から言うとプーチン大統領の交渉における最大の武器は、核兵器や生物化学兵器を本当に使うかもしれないという空気を醸し出す点にあります。