球団経営の常識をひっくり返した「楽天生命パーク宮城」の成功
顧客は、必要なモノ(ニーズ)から、欲しいモノ(ウォンツ)を絞り、さらに好きなモノ(ディザイア)を選ぶ。だから、ビジネスでは「顧客が望む何か」をできる限り具体的に考えようとすることが多い。しかし、その発想だけでは視野が狭まり、失敗しやすくなる。
反対に、ビジネスを抽象化したニーズで考える「ニーズ思考」が重要になる。「そのビジネスは『誰』の『どんなお金』や『どんな時間』を必要とするものなのか」まで抽象化すると、具体的な考えからは気づけなかった価値やライバルが見えてくる。
プロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」の本拠地、楽天生命パーク宮城の球場作りを例に見てみよう。楽天イーグルスは、チーム新設1年目に100敗近い成績で最下位になったが、その年のパ・リーグ6球団の中で唯一の黒字を達成した。これは、「チームが強ければ自然とお客は集まる」と考えられていた当時の球場経営の常識をひっくり返す成果だった。成功の背景にあったのは、ニーズ思考に基づく戦略だ。
「野球も楽しめる飲食店」として設計されている
従来通り、「野球場を作る」という考えだけだったら、野球施設をライバルとして、野球ファンのためだけの球場作りになっただろう。しかし、野球場を「エンターテインメント施設」と考えると、サッカー場やライブ会場、映画館といった様々な施設がライバルに浮かび、「娯楽を求める人」のための場所作りができるようになる。
もう一段階、抽象化して「そもそも野球場は、誰のどんな時間を必要とするか」を考えてみよう。すると、土日祝日に加え「平日の夜にグループで飲食を楽しみたい」というニーズが発見できる。ターゲットは一気に広がり、「平日の夜を楽しく過ごしたい」大勢の人となる。ライバルは、居酒屋・レストラン・カラオケ店にまで広がる。
だから、楽天イーグルスの球場は「野球を観る場所」ではなく、「野球も楽しめる飲食店」として設計されている。グループで話しやすい対面式の席が大量に用意され、飲食店に負けない美味しい食事、きれいな通路やトイレが整備された。その結果、野球ファンじゃなくても気軽に利用できる施設として、受け入れられることに成功したのである。
「誰のどんなニーズを満たすか」を抽象化して考える癖をつけて、戦略の幅を広げよう。